冷たい涙

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一人で車を走らせるのは一体何年ぶりの事だろうか… 普段は角田か東條グループ付きの運転手が運転する車で出かける為、取得していた運転免許が使われる事はほとんど無かった。 慣れない運転に戸惑いはするけれど、比較的どんな事でも器用にこなせてしまう一華にとっては久方振りの運転も楽しんで出来ていた。 (誰にも縛られずに何かをする事ってこんなにも気分が高揚する事だったのね…) 見慣れた景色も、車に乗る感覚も、何もかもがいつもとは違う様な気がした。 「一人で何かをする」。ただそれだけの事なのに鳥籠の中から空へと放たれた鳥の様に翼を広げてどこまでも羽ばたいていけるような気持ちになる。 (ああ…今日は本当に天気が良くて空が綺麗なのね。私はここのところこの空を見て綺麗だと思う事すら出来ていなかったのだわ…) 信号待ちで車窓から見上げた空は澄んだ青色をしていた。 間もなくやってくる夏を思わせるような爽やかな空だった。
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