白檀の香り

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白檀の香り

都会の喧騒から離れ、静かな場所にある小規模な納骨堂で理華子は眠っていた。 本来は東條家の墓に埋葬されるはずだったが、今まで東條家の習わしに従い何一つとして反抗などした事が無かった理華子が唯一願い出た事だった。 一華には今なら理華子の気持ちがよく分かる気がした。 きっと亡くなった後くらいは東條家という柵から逃れ、静かに眠りにつきたかったのだろう…と。 平日でお彼岸やお盆時期では無いこともあってか納骨堂にはほとんど人が居なかった。 静寂の空間の中で穏やかな時間と空気が流れている。お堂全体に漂う様々なお線香の香りが荒んでしまっていた心を清めてくれている気がした。 「母さま…お久しぶりです。今日、母さまの夢を見ました。変わらない優しい声が聞こえて、何だか会いたくなってしまって…」 骨壷と戒名の前でまるで会話をするかのように話しかけながら一華は母の柔らかな笑顔を目に浮かべていた。 手を合わせてゆっくりと瞼を閉じた時、まるで何かにそっと包まれているかのような不思議な感覚がした。 呼吸が整い、嘘のように身体が軽くなっていく。 (何だかとても温かい…) 射し込んできた日の光のせいだろうか?それとも… 「…あの…大丈夫ですか…?」 「え…?」 声が聞こえて目を開くと、一華の横に一人の男性が立っていた。
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