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「もし宜しければこれをどうぞ」
そう言って差し出されたのは子ども達に大人気の「モンスターズウォッチ」のハンカチだった。
「あ…えっと…」
男性は40後半くらいだろうか?
黒いパンツに白Tシャツ、ネイビーのカーディガンを羽織って年相応の男性らしい装いをしており、そんなハンカチを持ち歩く様には見えなかった。
「あ…失礼しました。初対面でいきなりこんな事をすれば困ってしまいますよね…」
ふと自分の顔に触れてみると涙で濡れてしまっていた。彼はそんな私を心配してハンカチを差し出してくれたのだ。
「いえ…ありがとうございます。このハンカチ、とても可愛らしいですね」
「お恥ずかしい限りです…頂き物なんですけど何となく愛着がわいてしまったもので」
シルバー色の短髪、蓄えられた髭…年齢を感じさせる外見とは対照的に少年の様に笑って見せた彼。
その姿を見て思わず笑みが零れた。
「ふふ…素敵ですね。でも…大丈夫です」
差し出されたハンカチを受け取ってから丁寧に返すと一華は改めて目一杯の笑顔で笑った。
「ご心配ありがとうございます。母を思って涙してしまっていた様ですが悲しかったり苦しくてでは無いのです」
「そうでしたか…大丈夫そうで何よりです。お線香の香りは…白檀ですか?ではそのせいかもしれませんね。白檀の香りには心をリラックスさせたり浄化する作用があるようなので」
そう言って彼も再び顔を綻ばせている。
「…白檀にそんな効果があったのですね…お線香の香りがどこか落ち着くのは、そういった効果のお陰だったのですか」
ゆっくりと頷いた彼がとても印象的だった。その姿に不思議となぜか心が落ち着く。
「あの…本当にありがとうございます」
一華は丁寧にお辞儀をするとその場を離れていった。彼も一華に軽く会釈してその姿を見守っていた。
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