白檀の香り

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納骨堂を後にした一華の身体はほのかに白檀の香りをまとっていた。 歩く度にその香りが鼻をくすぐり、穏やかな気持ちになる。 (白檀は癒しの香り…) 帰りの車の中で差し出されたハンカチと彼の笑顔が脳裏に焼き付いて離れなかった。 思い出す度にじんわりと温かくなる心が心地いい。 ◇◆◇ 「一華様、お帰りなさいませ」 「ただ今帰りました。角田、お願いがあるの」 出迎えにやってきた角田に声を掛けた。 「どのようなご要件ですか?」 一華はまるで少女の頃に戻ったかのような笑顔で言葉を返した。 「お香が欲しいの。白檀の香りのお香よ。お願いね」 暫く見た事が無かった一華の笑顔は角田の心に華を添えた。 幼い頃から一華を見てきた角田にとって彼女が心から笑えなくなっていた事が何より心苦しかったのだ。 だから数年ぶりに見た彼女の本物の笑顔に角田も顔を綻ばせずにはいられなかった。 「はい…かしこましました。一華様、理華子様とお会いして何か良い事があったご様子ですね」 「ええ。そうね」 母と白檀の香りが運んできてくれた縁だったのかもしれない。 一華はそんな事を思いながら母とよく似た柔らかな笑顔で笑った。
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