決意

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決意

「…遼太郎…お前には失望した。お前を養子として迎えたのは跡取りとして、東條の血を残すものとして相応しいと思ったからだ。だがそれを成せないというのなら…」 「大丈夫です!今すぐには無理でも、必ず!必ず子どもは作ります!勿論…男の子を!」 隆志の言葉に目を見開き必死になって取り繕う遼太郎の姿に一華は心が氷のように冷たくなっていくのを感じた。 「一華…そうだろう…?」 そう言ってこちらを見た遼太郎の表情からは怒りとも焦りとも感じられるものがひしひしと伝わってきた。 「…そうですか…分かりました」 一度チラリと遼太郎を見た後は視線を逸らして決してその顔を見ようとはせずに目線を下に落としていく。 「その話はお前達できちんとしろ。そして直ぐに実行するんだ。それから一華。外出の件は構わんが仕事の件はダメだ。お前は…東條の家を守る事だけを考えればいい」 「…分かりました」 遼太郎との件をなぜ口にしたのか自分でもよく分からなかった。 あの日、遼太郎の口から出た言葉が今までの自分を壊し、理華子の言葉が背中を押してくれている… そう感じてはいるもののそれが今に繋がっている実感は湧かないままだ。 「お前は…私の娘だ。東條の名を背負っている事を忘れるな」 一華はいつもなら必ずする返事をしないでただ俯いている。 初めて見せる一華の反抗的な姿に隆志も遼太郎も驚きを隠せずにいたが、それ以上言葉を口にする者は誰もいなかった。再び熱を失ったリビングで、柱時計の音だけがやけに響いて聞こえていた。
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