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「一華さん、遼太郎(りょうたろう)さんとは最近どうなの…?」 (…やっぱりきた…) 「…どうなの…とは何の事でしょうか?お義母(かあ)さま」 30畳程ある生活感の無いリビングに冷たく乾いた空気が流れていく。 少し引きつった口角を上げながら必死に穏やかな微笑みを作る一華の心中はアナログテレビの砂嵐の画面の様に白黒に乱れ、耳障りな雑音が響いている。 カチャン… 品の良い香りを漂わせた淹れたての温かい紅茶が義母の目の前にある冷たい大理石のテーブルへゆっくりと置かれた。 「嫌だわ一華さんたら…言わせないで頂戴な。(わたくし)が貴女に尋ねる事と言ったら子どもの事と決まっているじゃないの。遼太郎とは仲良くしていらっしゃるのかしら…?」 (仲良くして…って。言葉こそ選んでいるけれど要はセックスしているかどうかって事よね…信じられない…) 「…うふふ…お義母さまったら…お恥ずかしいですわ。そんなお話…その事でしたら遼太郎さんとはよくお話して努めておりますので。ご安心を」 女は表情(かお)で嘘をつく。 笑顔の裏に隠された沢山の感情はきっと数えきれないほどに。
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