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心のままに
「…まさかそんな事になっていたとはな…本当にすまない…だから頼む!これ以上お父様には…」
肩を震わせながら今にも泣き出しそうな顔をして一華を見つめている。
さっきまでの強気が嘘の様だ。
「…父さまに言うつもりはありません。もしあったのならばもっと前にお話していました。父さまがあなたを責める権利など無いことは分かっていますから…」
一華の言葉を聞いて安心したのか遼太郎はベッドへそのまま倒れ込んでいった。
顔に手を当てながら深く息を吐くその姿を見つめながら一華は名前をつける事が出来ない感情と向き合っていた。
苦しい
悔しい
辛い…
今までどれくらいその感情を笑顔で包み隠してきたのだろうか。
表に出すことが出来ずにいた行き場を失っていた感情が、複雑に絡まり合いながら今か今かと言わんばかりに顔を出してくる。
「…俺を…恨んでいるか?」
遼太郎の言葉に一華が首を横に振った。
「いいえ…」
「そうか…すまない…だけど…」
一華は遼太郎の言葉を遮るように再び首を横に振った。
「私は…子どもを諦めません…だからあなたが言うように他の誰かから遺伝子を貰いますね」
複雑に絡み合い心の中から溢れ出した感情を込めて一華は微笑んだ。
頬を伝う冷たくて熱い雫が静かにこぼれ落ちていく―――。
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