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遼太郎
「遼太郎さん…ちょっとお話いいですか?」
仕事から帰宅した夫、遼太郎からスーツの上着を受け取りながら囁きの様な声で話しかける。
「何だ?改まって…出来れば先に風呂を済ませたいところなんだが」
帰宅時間に規則性は無く、ほとんど毎日会合や接待による外食で済ませる遼太郎は一華と食卓を囲む事はめったに無い。
今日も食事を済ませた後の帰宅で、時計の針は10時を指していた。
「ごめんなさい…どうしてもお話したいんです。遼太郎さん、お風呂の後は疲れて寝てしまうからなかなかお話も出来ないし…」
夫婦の間にある距離感と温度差を示すかのように遼太郎は深くため息をつく。
一華は遼太郎のそんな姿を見る事が何よりも苦しくていつもは思う様に話しかける事すらままならない状態だった。
「で、話っていうのは何なんだい?」
一華に目を向ける事無く腕時計を手から外し、ゆっくりとネクタイを緩めながら言葉を口にした。
「…今日、お義母さまが訪ねてきたんです」
「母さんが?」
「義母」という言葉に反応してようやく目線を合わせた遼太郎は眉間に皺を寄せながら口角をぐっと下に下げていた。
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