遼太郎

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「…また孫を催促されたんだろう…?」 遼太郎には分かっていたのだ。 母親がどんな話をする為に嫁である一華の元を訪ねて来たのかが。 緩められたネクタイを乱暴に首元から引き離すと再び大きなため息をつきながら色のない瞳で一華へと目線を送った。 「何度も言ったと思うが母さんの話は聞き流せばいいよ。一華が気にする必要は無いし、俺も母さんの言葉を真摯に受け止めるつもりは無い。母さんの為に子どもを作るだなんて事はしたくないだろう?だから構わなくていいよ」 遼太郎は一華の気持ちに寄り添おうとはせず、いつも上辺だけで物事を判断する。 それでも一華は文句一つ言わずにやり過ごしてきたけれど、今日は…。 「…遼太郎さん。子どもの件はお義母さまから催促されているから欲しいんじゃありません。私自身が望んでいるんです…あなたとの子どもを」 遼太郎とは対照的に瞳の奥に強い意志を宿しながら黒く輝く目で見つめて胸の辺りで折り重ねられた手に力を込めた。 伝わる体温は熱く、ひんやりとしていた空気に熱がこもっていったように感じる。 言葉を発した後の乾いた唇の震えを抑えながらゆっくりと口角を上げた。
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