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高校生/ぼたもち/布団の中
ユキが、寝ながら口をもぐもぐさせている。たまにぱかっと開いて、それからまたもぐもぐしているから、百パーセント、夢の中で何か食べているんだろう。その口の中に指を突っ込むか、それとも何か食べ物を台所から持ってきて突っ込むか悩んでいたら、ユキはうっすら目を開いて、眠そうに瞬きをした。
「……おはよ……」
「おはよう」
まだ明け方だから寝てていいよ、学校も休みだし、と頭を撫でてやると、ユキはぼんやりこちらを眺めた。
「……さっきさあ」
「うん」
「夢でヤナギが泣いてた」
するりとその白い腕が伸びてきて、俺の頬を拭った。日が昇る直前、僅かな光でもその顔は白く浮き上がるようにして、感情のないまま俺を視線でなぞる。
「泣いてた?」
「ユキが死んじゃったーて泣いてたから、おはぎにしてあげたの」
「……? なにを」
「わるいゆめ」
おいで、とその腕が開かれて俺を招くので、誘われるがままその隙間に身体を滑り込ませる。ユキのほうが後に起きたから、ずっと布団の中にいたから、ずいぶんと温かくて、つい涙が出た。
「おはぎにしちゃったからだいじょうぶ、」
水にさらして、ことこと煮て、あまあいおさとうをいれた小豆で白い餅を包む。ほわほわ甘くて、もちもちで、冷めても美味しい。
「いっぱい食べてたらさ、ヤナギが」
「俺が?」
「ぼたもちおいしーねっていうから、おはぎだよっていったら、めがさめちゃった……」
と、言って、ユキはまた寝た。すう、すう、寝息が聞こえてきて、ああなんてしあわせな夢なんだろうと、俺はまた泣くしかなかった。
もうすぐ、夜が明ける。
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