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「ほんと、今までの僕たちの苦労は何だったんだろうねー」  ライブ後の打ち上げ二次会の場において、不満ともとれるその発言に反しバンドメンバーの斉藤の表情は朗らかだ。 「なに、斉藤はまだ反対なわけ?」 「んー、別にそういうわけじゃないけど、……湊くんこそ、もういいの?一番反対してたじゃん」 「……オレは、あいつがちゃんと前向いていられるなら、なんだっていいよ」 「……ふーん。なんだかんだ言って、湊くんは杉浦くんには優しいよねぇ」  斉藤の人を嘲笑うかのような表情と物言いに少しイラッとするが、まぁいつもの事だ。 「……そんなんじゃねぇよ」 「ま、正直今日のところはまだそれなりに思うところもあるけど、それでも、あんなパフォーマンス見せつけられたらねぇ、もう認めるしかないよねぇ」 「………まぁな」  うちのバンドのギターボーカル杉浦は、この二年の間一人の女性への想いを拗らせていたせいで日常生活はおろか、ライブでのパフォーマンスにも大いに支障をきたしていた。  バンドを続けられないかも、と誰もが思った程に。  だけど今日の杉浦は、最後にステージに登場してきた時から明らかに様子が違っていた。  あいつの歌声、ギター、苦手なはずのMCも煽りも、十八歳の頃から六年ずっと一緒にやってきてこれまでで間違いなく一番良かった。そしてそんな杉浦の気迫に引っ張られるようにオレのドラムも、斉藤の鍵盤も長田のギターも小原のベースも、それぞれ最高のパフォーマンスが出来た。
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