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3
体育の授業。バレーボールの内容だった。男女共習で、チームも男女混合の構成。チームは定期的に組み替えされていた。
この日は新チームの発表。俺はあの子と同じチームになった。
チーム毎の練習時間となった。俺はチームリーダーに選ばれ、練習をリードする立場にあった。
まずは円陣パス練習。俺の元へボールが来ると、俺は毎回あの子へパスした。
意外なことに、あの子はとても上手だった。無口で、クラスでも目立たない子だから、俺は勝手に運動が苦手な子だとばかり思っていたが、それは偏見だったと判明した。
「藤巻さん、やっぱ上手いよな。小学校の頃バレー部だっただけあるわ。」
同じチームになった康哉が、ポツリと呟いた。
「えっ?お前、藤巻さんと同じ小学校だったの?」
「ああ。同じクラスだった。」
なんて羨ましいんだ……。そんな前からあの子と知り合いだったなんて……。
「でも、今と同じで無口でさ。地味~な感じだった。だからよく“光ってないヒカリ”なんて言われてた。」
何だか俺は少し悲しくなった。
「本当はめちゃくちゃ運動神経良いんだぜ。勿体ないよな、中学入って美術部とか…。」
俺は、もっともっとあの子を知りたいと思った。
練習時間が終わり、いよいよゲーム開始。第一試合は俺たちのチームだった。
試合は順調に進んでいた。俺たちのチームが3点リードでマッチポイントを迎えた。
ラリーが長く続いて競っていた。相手チームからのボールが返ってきて、俺がレシーブしようとしたその時、
俺の隣に居たあの子と激しく衝突した。
あの子は倒れ込んだ。その拍子で、あの子のメガネが吹っ飛んだ。
「藤巻さん!」
俺はすぐにあの子の元へ駆け付けた。
「ホントごめん。大丈夫?」
するとあの子は顔を上げて俺を見た。
メガネが外れたあの子の顔は、
驚くほどめちゃくちゃ可愛かった。
キュンとなった。一瞬で心を奪われた。
今まで生きてきて、女の子をこんなにも可愛いと思ったことがあっただろうかと思うほど、可愛いらしかった。
俺の恋心は、ますます膨れ上がった。
あの子は慌ててメガネを拾い、何事も無かったかのように守備についた。
俺だけが一人、うわの空だった。
それから試合はひっくり返り、逆転負けとなった。
あの子の素顔が焼き付いて、頭から離れなかった。
一目惚れってこんな感じなのかな…。そういえば俺の父ちゃんも、母ちゃんに一目惚れして結婚したって言ってたな…。やっぱ親子だな…。いや、でも俺は一目惚れなんかじゃないぞ。あの子の中身を好きになったんだ。じゃあこの気持ちは何なんだ…。
一人で勝手に自問自答、そして言い訳していた。
「お前、何やってんの?」
康哉が俺の顔を覗き込んだ。
「ボーッとしてみたり、かと思ったら急に頭抱えて首を横に振ったり。情緒不安定か?」
康哉に全部見られていたとは…。俺はとても恥ずかしくなった。
ホームルームが終わり、またいつものように康哉に腕を引っ張られて教室を出る。最後の短時間であの子へ手を振る。
いつも見向きもしないあの子。今日は…
一瞬だけ、目が合った。
「よっしゃー!!」
俺は教室を出た後、ガッツポーズをして歓喜の声を上げた。
一歩前進。嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
「何が?」
冷静な声でそう言い、康哉は俺をまちまちと見た。
「あは……、いや、何でもない。」
これでちょっとだけ近付けたかな……?と思いたい。
俺は物凄く小さな幸せを噛み締めた。
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