八、新たな日々

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「今日は午前から準備があって疲れたのではないか?」 「あれくらいでしたら平気ですよ。私、遠乗りに出かけるほどには体力がありますから」 「それもそうか」  小さく笑ったローガンは、フレイヤを緩く引き寄せると、こめかみのあたりに軽い口づけを落とした。  想いが通じ合ってからは時折髪や指先にこうして口づけを落とされることがあったので、少しずつ慣れてはきたものの、流れるようにされると危うく『ぴゃっ!』と奇声をあげそうになる。  うるさい鼓動をごまかすように、フレイヤは少し早口に話し始めた。 「このお休み中か、また今度のお休みにでも、遠乗りに出かけてくださいますか?」 「無論だ。数日後にでも行こう」 「それは楽しみです」  きっと、乗馬するローガンはとても格好いいだろう。  二人で人目を気にせず馬を駆り、青空の下で、持参した昼食を食べる。眺めのいいところに行くのもいいだろう。やりたいことを考えると次々に思い浮かんで、楽しみで仕方がない。 「……三週間のお休みは十分長いと思っていましたが、あっという間に終わってしまいそうな気がしますね。ローガンさ……あなたとやりたいことがたくさんあるのに」  つい癖で様を付けそうになりごまかしたフレイヤだったが、当然それはバレて、ローガンが吐息だけで笑うのがわかった。 「婚礼の儀のやり直しが殿下の耳に入ったようで、言伝をいただいた。今日から三週間でよいとのことだ」 「そうなのですか! では、もうしばらくゆっくりできますね」  弾んだ声をあげたフレイヤだったが、休みなんて言葉を知らないように登城していたローガンを思うと、心配な気持ちも湧いてくる。 「あ……でも、ローガンは、王城からこんなに長く離れていると落ち着きませんよね」 「いや……事後処理で慌ただしいだろうが、殿下周辺の危険度が大いに下がったのは間違いないから、この貴重な休みを謳歌したいと思っている。ここまでの連続した休暇は次がいつになるかわからないしな……今のうちにフレイヤとゆっくり過ごしておきたい」  顔はどうしようもないので他で補いたいという言葉通り、ローガンはなるべく思いをはっきり口にして伝えてくれているように思う。  真摯な表情で言われるとなおさら破壊力が抜群で、フレイヤは熱を持ちそうになる頬を両手で押さえた。 「そのように思っていただけて……私、とても嬉しいです。私も、ローガンと過ごせるこのお休みを、存分に満喫したいと思います」 「ああ」  少しの沈黙のあと、フレイヤはグラスに残っていた果実水を二口、三口と飲み切る。  そして、改めてローガンの方へと向き直った。 「それで、あの……私の傷は、もう完全に治ったのですけれど……」  おずおずと切り出すと、ローガンは低く呻いて目元を片手で覆った。 「それは……そういう意味でいいのか……? 遠乗りの誘いではなく」 「遠乗りの誘いはもういたしました。なので……はい。『けじめ』は、もうよいのではないかと思うのです。ローガンが自分では自分に許しを与えられないのでしたら、私が完治宣言をいたします」  数秒考えるように固まったローガンは、眉尻を少し下げて、フレイヤの頬に手を添えた。 「……言いづらいことを言わせてすまない。それから……ありがとう」  額に口づけたあと、ローガンは軽々とフレイヤを抱き上げた。向かった先は、大きな寝台だ。
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