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オウェインが調査に乗り出してからの二年弱で数回宰相の悪事の証拠を掴みかけたが、あと半歩というところで手のひらをすり抜けていく。
これでは埒が明かないと最終手段の決行に踏み切り、ギデオンを取り込むと同時に公爵家に何人か送り込み、準備を整えるのに約一年。
フローレンス毒殺未遂という、宰相にとって寝耳に水の架空事件を作り出し、送り込んだ者たちにでっちあげの証拠を仕込ませて断罪に至ったのだ。
オウェインがここまで手段を選ばないとは思わなかったのか、とことんまで追い詰められた宰相がやけくそでフレイヤに手を出そうとしたのは予想外だったが、それ以外は概ね計画通り。
フローレンスは被害者として同情を集めつつ婚約を解消することに成功し、オウェインは宰相一派を排除、ソフィアとの結婚までの道のりも順調に進んでいる。
「……わたくしはあと二ヶ月ほど“療養”したのち、国外に出ます」
「例の医学博士と結婚するのか」
「ええ。毒を盛られた私の治療をしてくれた彼と、療養生活の中で自然と想い合うようになったということで」
フローレンスには想い人がいた。彼は、アーデン侯爵家の私学で知り合った、隣国の年若き天才だ。
一人で医学を大きく進歩させているような人物で、フローレンスは得意とする薬学で彼とともに研究をしつつ暮らしたいと願っていた。
「わたくしはこの国の権力争いなどに微塵も興味はありません。保険として、わたくしの身に何かあれば、ソフィア様に“真実”が伝わるようにしてありますから、どうか妙な気は起こさないでくださいませ」
フローレンスの言葉を聞いたオウェインは、不本意だというように片眉を上げた。
「私は随分と信用がないな」
「殿下を信用していないわけではありませんが……事が事ですので。念のための保険ですわ」
「気持ちは理解できるが、杞憂だと改めて言っておこう。私は国のために汚れ役になる覚悟は決めているが、不都合な人間を誰彼かまわず始末していては、奴と変わらなくなってしまうだろう」
「……ええ、そうですね。殿下のそういったところを、わたくしはとても尊敬しております」
「それは光栄だ」
二人は静かに見つめ合い、やがてどちらからともなく微笑んだ。
「この度はご婚約おめでとうございます。それでは、ごきげんよう」
「ああ。達者で過ごせよ」
──密やかな再会は、こうして幕を下ろした。
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