八、新たな日々

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 背後で扉が閉まる微かな音がする。数歩入ったところでフレイヤが足を止めていると、ソファにいたローガンが立ち上がり、こちらへとやってくる。  腕を差し出され、フレイヤはそこへそっと手を添えた。 「何か飲むか? 果実水と酒と茶と水がある」  ソファへと向かう間にそう言われ、まるでカフェのような品揃えのよさに、フレイヤはくすっと笑ってしまう。お陰で少し緊張も和らいだ。 「では、果実水をいただきます」 「ああ」  グラスに半分ほど注がれたのは、柑橘系の爽やかな香りの水だ。一口飲むと、緊張で乾いていた喉が潤され、同時により落ち着くことができる。  気遣いをありがたく思いつつ、フレイヤはグラスをテーブルに置いて、ローガンを見つめた。 「ローガン様」 「……ただ、ローガンと」  生家の階級は同格の伯爵家だが、フレイヤは後継者ではない次女で、ローガンは次期伯爵で年上である。なのでこれまでは『様』を付けて呼んでいたのだが、たしかに夫婦では少し違和感があるかもしれない。  とはいえ、急に呼び方を変えるのも難しく思えて、フレイヤは少し沈黙した。 「折を見て言おうと思っていたのだが、呼び方を変えるならば今日が節目としてちょうどいいだろう? 呼ばれ慣れているし少し惜しい気もするが……今のままでは少し距離を感じるようにも思えてな。フレイヤと俺は、共に並び歩んでいく夫婦になったのだから、ただローガンと呼んでほしい」  憧れの人として後ろを追いかけ回すのでもなく、叶わぬ恋と諦めて遠くから悟られぬように時折見るでもなく、お互いに愛情を抱いた夫婦として共に歩んでいけるのだと思うと、胸の奥が熱くなる。 「はい……ローガン」  まだ慣れず、小さめの声になりながらも絞り出した言葉を聞き、ローガンは満足そうに頷いた。
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