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また軽く口づけを落としたあと、夜着の前が開かれた。頼りない薄布とはいえ、あるとないでは大違いだ。
ランプがぼんやりと照らす薄暗い寝室とはいえ、素肌を大胆に晒している状況に、フレイヤは落ち着かない気持ちになる。
「私一人は、いやです……」
自分だけ脱がされているのが恥ずかしくてローガンの夜着を引っ張ると、口元を引き結んだ彼は上を一気に脱ぎ捨てた。
鍛えられた体躯が露わになり、フレイヤは目を瞠った。
ローガンは背が高く大柄な部類だが、巨漢という感じでもなく、涼やかな容姿も相まって着痩せして見えるのかもしれない。
隠されていた肉体はしなやかなのに硬そうな、戦う男性のもので、フレイヤは自分とはまったく違う造形が気になり、つい指先を伸ばしていた。
筋肉が陰影を作る胸元や腹部をなぞれたのは、ほんの数秒。
視界がぐるんと動いたかと思うと、フレイヤはローガン越しの天井を眺めていた。
「……抑えが効かなくなるから、俺を弄るのはあとにしてくれ」
実に渋い表情で言われて、こんな時なのに笑いたくなってしまう。
しかし、抑えが効かなくなるとどうなるのかわからず怖いので、「はい」と大人しく頷いたフレイヤは手を引っ込めた。
──────
──……
「……すまない。浮かれてやりすぎてしまった」
フレイヤの身体を簡単に清めて夜着を着せたあと、緩やかに抱きしめながら言う彼の頭に、ぺたんと垂れる犬耳の幻影が見えそうだ。
思わずくすっと笑うと、腹部の筋肉が疲労感と鈍い痛みを訴えて、フレイヤは少し顔をしかめた。
「痛むか? 痛み止めの薬も用意しているが……」
「いえ……大丈夫です。傷ではなくて、筋肉痛のような感じがします」
初めての行為だったので当然といえば当然なのだが、普段使わない部分の筋肉を酷使したらしい。フレイヤの言葉を聞いてなんとも言えない顔で沈黙したローガンは、「数日はゆっくり休もう」と告げた。
「あまり気になさらないでください。我慢しないでと言ったのは私ですし……その、今後から手加減はお願いしたいですが……」
「……努力する。が、俺は自分が存外堪え性のないことに気づいた。本気で嫌な時は頬を張るとかしてくれ」
「最愛の夫を閨で叩く妻がどこにいますか」
フレイヤ渾身の突っ込みは、「最愛の夫」とローガンがしみじみ噛み締めたためにあまり意味を成さなかった。流れるように口から出た本音が照れくさく、フレイヤはきゅっと唇を閉じた。
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