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フレイヤのあちこちの筋肉痛が治り、元通り元気いっぱいに動けるようになった三日後。二人は約束通り遠乗りに出かけた。
フレイヤはララに、ローガンはルノという青毛の馬に乗って森を抜け、小高い丘を駆ける。
昼は、爽やかな風が吹き抜ける湖畔で防水布を広げ、料理人が作ってくれた軽食を食べた。包み紙ごと手で持ちかじりつくのは、ローガンは糧食で、フレイヤは街歩きでお馴染みの食事法なのでともに抵抗はない。
視界に入らない位置で護衛が控えているだけの、ほぼ二人きりの気楽なお出かけが楽しくて、フレイヤは一日ずっとうきうきだ。
ララも、アデルブライト家の別邸に来てから初めて自然の中を駆け回れて、心なしか活き活きしているように思う。フレイヤは艶のある月毛をそっと撫でた。
「またこうして遠乗りに来たいものですね」
「ああ。今度は領地も案内したいものだ」
「その日が来るのも楽しみです」
領地持ちの貴族は大半が、社交期に王都に滞在し、それ以外の時期は領地にいる。
フレイヤやローガンは父が王城勤めのため、物心がつき、教育を受けるようになったあたりから王都の邸宅で過ごしているが、生まれ育った領地はまた特別な場所だ。
ローガンが幼少期に見ていた風景はどんなものなのだろうか。
また一つ、今後の楽しみが増える。
「来週は一番街に行って、殿下とソフィア様の婚約式で使う服飾品を頼もう」
「新しく誂えるのですか?」
「きちんとドレスを選び、贈りたいと思っていたのだ。俺はまだ、フレイヤがどういうものを好むのか詳しく知らないから、ほとんど付き添い程度になるかもしれないが……」
「せっかくならローガンに気に入ってもらえるものを私も選びたいですし、意見をいただけるだけでも嬉しいです。私もあなたに装飾品か何か見繕わせてくださいね」
「……嬉しい」
一瞬微笑んだあと、それを抑えるように仏頂面になるローガン。
しかし、彼の喜びはきちんと伝わってきて、フレイヤは満面の笑みを浮かべた。
「それから、王都から数日の範囲内にはなるが、旅行に行くのもいいな。どこか気になるところはあるか?」
「そうですね……隣町の名物だというヤパの実を食べてみたいです」
「ああ……美味いが日持ちしないためにほとんど流通しないと聞いたことがある。食べに行くか」
二人でこれからしたいことは尽きない。
慌ててすべてをこなさずとも、ともに過ごす時間は長くある。
その幸せを感じながら、フレイヤはローガンに寄り添うのだった。
《完結》
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