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──翌日。
広い寝台の上で一人目を覚ましたフレイヤは、滲んだ涙が固まった目尻を軽くこすりつつ、天井を見上げる。
結婚初夜からまさかの共寝すら拒否だ。こんな状態から少しでも関係性を進展させることは可能なのか……先のことを考えると暗澹たる気持ちになり、重い溜息が漏れた。
(侍女たちも、絶対絶対気づいてるわよね)
昨日は初夜だったので、いつでも主人の求めに応じられるよう、手厚く侍女たちが控えていたはずだ。
つまり、フレイヤとローガンの間に何もなかったことに、屋敷の者たちが気づかないわけがない。
「はぁ……」
再び重い溜息を吐いたところで、控えめなノックが聞こえ、侍女が入ってくる。
「奥様、もうお目覚めだったのですね」
「……ええ」
恰幅のよい彼女は、アデルブライト家の侍女の中でも古株で、名前はマーサといった。
花嫁にしてはちょっと辛気臭い顔をしていただろうフレイヤを甲斐甲斐しく世話し、励ましてくれたことを思うと、なんだか申し訳なくなってくる。
しかし……。
「体調はもう大丈夫でしょうか?」
「体調……ええ、大丈夫だけど……」
「それはようございました。ですが、私としたことが気づけず申し訳ありません。ローガン様がついにご結婚されたことに浮かれてしまっておりましたわ……」
「……?」
どうにも話が噛み合わないが、彼女の言葉から、フレイヤはなんとなく事情を察した。
ローガンは昨夜この寝室を出たあと、「フレイヤが酷く疲れている様子だから今日は休ませる」とでも侍女たちに伝えたのだろう。
早速冷え切っている夫婦の関係を大っぴらにするつもりは、今のところローガンにはないのかもしれない。フレイヤとしても、初夜に捨て置かれた新妻という不名誉を避けられるのは、一応ありがたいことに思えた。
「食欲はございますか?」
「ええ」
ほっとしたように微笑んだマーサは、他の侍女たちを呼び入れて、フレイヤの身支度をする。
昨日は一日中、きっちり結い上げた髪に豪奢なドレスで疲れてしまったが、今日は体調にも気を使ってか、普段着用の少しゆったりとしたドレスだ。
亜麻色の髪は緩めの三つ編みにしたあと、丸く綺麗にまとめられてゆく。
「さあ、参りましょう。食堂で旦那様がお待ちですよ」
「…………」
昨日の今日で、どんな顔をしてローガンと会えばいいのかわからない。
しかし悲しいことにお腹はしっかり空いているので、フレイヤは静かに頷き、立ち上がった。
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