二、結婚生活の始まり

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 食堂では、今まさに朝食が並べられているところだった。  ローガンは、仕事関係の書類だろうか、何かを確認していたようだが、それを家令に預けてこちらへと視線を向ける。 「……フレイヤ」 「おはようございます。お待たせして申し訳ありません」 「いや、気にするな」  食事が揃ったところで、静かな朝食の時間が始まる。  咀嚼(そしゃく)の音すらも聞こえてしまいそうな沈黙をローガンの方も気まずく思ったのか、数秒手を止めて、おもむろに尋ねてきた。 「……よく眠れたか?」 「…………」  昨夜のあの会話のあとで、どうやったらよく眠れるというのだろう。  内心は複雑だが、表向き、昨夜は疲労困憊していたフレイヤを気遣って寝室を別にしたことになっているはずだ。使用人たちの前で下手なことは言えない。 「ええ……お陰様で」 「……そうか」  会話終了。  この調子では、閨事に関して多少誤魔化せたところで、使用人たちの間で遠からず「夫婦仲が悪いらしい」と話題になるだろう。  使用人たちの口が固かったとしても、そういう噂はいずれ外へ漏れていく。ここは別邸だから多少時間はかかるだろうが、話がアデルブライト伯爵夫妻の耳に届くのも時間の問題だ。  レイヴァーン伯爵家との関係があるから、すぐに対応が悪くなるとも思えないが……。  先のことを考えると、フレイヤは早くも憂鬱になってくる。  美味しいはずなのにいまいち味がしない朝食を終え、憂鬱ごと嚥下しようと食後の紅茶を飲んでいた時だった。 「……フレイヤ」 「はい」 「少し、庭を散歩しないか」  唐突な提案に、フレイヤは驚いて、目をぱちくりとさせた。  一体、どういう風の吹き回しだろうか。  彼は、こちらとの関わりを最低限に留めようとしているのかと思っていたが……流石に新婚早々この雰囲気では、レイヴァーン伯爵家に申し訳が立たないとでも考えたのだろうか。 「……はい」  戸惑いながらフレイヤが頷くと、ローガンも頷き、紅茶を飲み干して立ち上がる。 「では、行こう」 「は……はい」  さっきから自分は「はい」しか言えていないな……と思いつつ、フレイヤは差し出された逞しい腕に手を乗せて立ち上がった。  
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