一、唐突な婚約

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 それからは、怒涛の勢いで結婚への準備が進んでいった。  ソフィアとローガンの結婚で悠長に構えていたために、王太子に横から掻っ攫われる羽目になったからだろうか。両親も、アデルブライト伯爵家側も『今度こそは絶対に結婚を成立させる』という並々ならぬ意気込みを抱いているように感じる。  もう何度目かになる採寸をされながら、フレイヤはローガンのことを考えた。 (両家としては結婚に乗り気だけど、彼自身はどう思っているのかしら……)  彼と姉の婚約が決まってからは、ほとんど彼と顔を合わせないようにしていた。  そういうわけで、最後に交わした会話は、「……フレイヤ?」「お……お勤めご苦労さまでした」である。これではあんまりだ。  せめて結婚前にはもう少し意思の疎通を図りたいと思うものの、彼は王太子の側近で、とてつもなく忙しいらしい。  フレイヤは、そんな彼に対して「お会いしたい」などと図々しく伝えられるはずもなく、そもそも会ったところでまともに会話できるのかの自信もなくて、ただ時間ばかりが過ぎていった。  ──何やら興奮した様子の侍女たちがフレイヤのもとへとやって来たのは、結婚決定から一ヶ月近くが経ち、せめて手紙だけでも送ってみようかと思い始めた頃だった。 「フレイヤお嬢様! アデルブライト卿からドレスとお花が届きました……!」 「えっ!」  運び込まれてきたのは、数着のドレスと、薄紫と白の花が基調の可愛らしい花束だった。 「お手紙もございます」 「……ありがとう」  侍女から差し出された手紙の封を、ゆっくりと開ける。  そこには硬質で几帳面な筆致で、『なかなか会いに行けずすまない。近々時間を作る』と短く書かれていた。 「ローガン様……」  姉のように想われてはいなくても、別に嫌われてはいないようだ。それがわかっただけでも十分だった。  ローガンと会えたら、今度こそどうにか頑張って、普通の伯爵令嬢として振る舞いたい。  そして、姉の代わりには不十分だろうが精一杯務めるつもりであること、このドレスや花束のお礼を伝えよう。  そう心に決めたフレイヤは、ローガンが訪れる日を今か今かと待ちわびるのだった。
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