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1.アカシックレコード
夢をみる目は何処についているのだろう。探してみたことがあるか。ないか。ボクはあったけどない。気付いた後で、それ以前の記憶は星の水に溺れて消えた。小さな気泡だけが今日もポコポコボクの胸の水にあぶくしている。
ボクの仕事は猫の夢を具現化することだ。
ある日を境にそんなことができるようになった。
一秒の間にでき得る限りたくさんの瞬きをしてみなよ。
その刻んだ視界の一個が君の夢だとする。
うん。
ボクにはそれが世界のどのページに書かれているか、わかるんだ。
誰かがこう呼んだ。
アカシックレコード。
この世の在り様の全てが記録されたナニカ。
少しわかり易いように言おうか。
一枚の原稿用紙がある。
マス目のひとつに書ける文字の数は有限だ。
かけることの幾つであっても、それは有限だ。数字で捕まえることができる。ね。ボクも君も数字からは逃げられない。
世界が明日めくるページにちょいと猫心を加えてやるだけ。
ボクは猫たちの夢を聴く。
その瞬間のためだけに生きている。
ずっとずっと、ページのめくれる音がみえる。
永遠に続くその音にストップをかけることができるのはボクだけだ。
夢みた本人にもできないこと。
肉球の淡い色はこのために淡いのに、誰も気付かない。
ボクと肉球だけの秘密を、たったひと時、たったひと瞬き、謳う。
なぜそんなことができるのか?
それはきっと、ボクが夢みることを恐怖したからだ。
ボクは眠ることを拒絶した。
あんな恐ろしい夢をみるくらいなら、もうずっと起きていようと決意した。
どんな夢?
君は映画を観るだろう。多分、そのどれかひとつさ。
眠るという快楽の全てを拒絶したボクに、与えられた罰はたまたまボクにとっての快楽だった。
そのことには感謝する。
さぁ、ボクの話はこれで終わり。
明日がめくれる少し前、外灯の影が戯れに石畳を歩き出す時分時。猫たちは夢を語る。
噴水が月の歌を口パクし、窓がゆっくりと瞬きをする。
シャッターを下ろしたパン屋の前。
猫たちが永遠のページをめくる時、ボクは拝み屋と呼ばれた。
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