2.ホシカイ

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2.ホシカイ

「星を飼いたい?」  拝み屋はパン屋のシャッターに背中を預けてゆっくりと呼吸している。向かいに一匹の猫が拝み屋を真っすぐに見据えて獲物を追う寸前のような毛羽立ちでいた。 「星に首輪を結わえるのかい、大きなもんだな、それに連れて歩くにゃ重すぎるぜ」  夜の町に二匹の声が数多の耳持つ者たちに盗み聞かれている。生き物が目を閉じる時間、耳を開く時間。 「違うにゃ」  薄茶色い縞模様が外灯に照らされて影が自由に遊んでいる。猫は語り始めた。  カシャン。シャシャシャシャシャ……。  拝み屋の背中が光の速度でめくられて、パン屋のシャッターはおびただしく鳴いた。  「はぁ」  拝み屋の目が無意識な回転を始める。視界が求めるものがあちらの世界なのだから仕方がない。  拝み屋の回転する目に、ページがめくれるのがみえる。さぁ、肉球を一閃くれてやる。そのタイミングを逃さないように。 「星はこの目に飼うのさ」  猫が空をしゃくり上げた。幾千万の星たちが瞬いて立候補している。猫はその気配を知って首を振る。  突然に星たちはみんなして照れていた。照れることすら一人ではできない。星は臆病者の群れだった。 「星は一個だ」  星たちはがっくりと息をひそめる。具合の悪いのはひっそりと輝きをやめた。 「俺たちの住んでいるこの星を目に飼っちまうのさ。雌猫は俺の目を覗き込んで言うだろうな。そこに住まわせてくれないかって。俺はこう返すね。もうとっくに住んでいるじゃないかってね。それから二匹は星が眠るまで子守歌を唄う。一匹では唄えないやつさ」  ページの中に碧い目をした猫がみえた。 「にゃ!!」  一閃。  拝み屋の肉球が星に触れる。  翌日。  拝み屋はパン屋のゴミ入れバケツの蓋の上に陣取って喉を鳴らしていた。  薄茶縞の星飼い猫が数匹の雌猫に追われて逃げている。  擦れ違い様に、左目でウィンクをした。瞬間、世界が真っ暗になった錯覚がして、拝み屋はゴロリ、空を仰いだ。みえない星たちに、拝み屋は呟く。 「次は一人でおいで」
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