ポケットフォン

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 ──それからひと月ほどが過ぎた。  とにかくこの一ヶ月は忙しかった。  中学生になると始まる部活を決めるための部活動見学に、クラス内での係や委員会決め、クラスメイトの名前も覚えなければならなかった。  ナキリの通うあけぼの第一中学は部活に入ることを強制されており、何かしらの部活動に入部しなければならなかった。  特にやりたい部活動が無かったナキリは、基本土日休みの茶道部に入部することにした。幼馴染のリンは楽器をやりたいと吹奏楽部に入部していたが、吹奏楽なんて大変なだけでよくそんな部活動に入ろうと思うなとナキリは感心していた。  クラス内での決め事の係はとにかく楽なもの委員会なんて面倒でもっての外で、話し合いには一切入らず窓の外を眺めているだけだった。  彼女はこの三年間の中学校生活がのんびりと過ごせたらそれだけでよかった。  慌ただしい学校生活を送っていたナキリは、初めてのことが多く疲れも溜まっており、家に帰るとポケホをいじる暇もなく最近は眠ってしまっていた。  段々と中学校生活にも慣れてきたが、リンが吹奏楽部に入ったため休みが合わず、休日はダラダラと過ごす日々が続いた。  そんな暇な日々をナキリは退屈なんて思っていなかった。むしろ平和で幸せだと思うぐらいだ。  ある日の日曜日、今日もいつもの通り昼頃まで寝巻き姿で顔も洗わずにダラダラと過ごしているナキリ。  そんな姿が母にバレ、しっかりと怒られて仕方なく起きたが、たいしてすることもなくポケホを開きいじっていた。  偽物ということは承知の上だが、今ではもうそんなことどうでもいいやと思っていた。 「何このアプリ?」  ポケホのホーム画面をなんとなく横にスライドしていると、見覚えのないアプリが一つ入っていらことに気がついた。  アイコンの下には「フリーデン」の文字が書かれている。  リンが悪戯で入れたのだと思い、躊躇することなくそのアイコンをタップしアプリを開く。  真っ暗な画面になり、数秒経ったあと仮面を被ったピエロのような変なキャラクターが出てくる。  何かのゲームアプリだろうかと、ぼーっとその画面のキャラクターを見ていると急にそのキャラクターが喋り出した。 「南雲ナキリ様! フリーデンの世界へようこそ! 私の名はMr.ペリコロ以後お見知り置きを」  ふざけた格好にふざけた喋り方をするキャラクターの言葉を聞きゾクっと鳥肌が立つ。 (なんで、こいつ私の名前知ってるの……) 「あらあら~、今なんで私の名前知ってるのって思いましたよねー」 「!?」 「私はなーんでも知っているんですよあなたのことならね」  こちらを見て不敵な笑いを浮かべるペリコロと呼ばれる男。ふざけた仮面は常に目元と口角が上がっているため笑って見えるのは当然なのだが、まるで本当に自分に話しかけてきているようで気味が悪かった。  高度な悪戯アプリなんだろう、きっとインストールしたリンがふざけて私の名前を設定したんだ。そう思うようにしたナキリはアプリを閉じようとする。 「あぁ、ダメですよ閉じちゃ! 今からあなたには大事なミッションが与えられるのですから!」 「……ミッション?」 「えぇ、あなたは選ばれたのです! フリーデンというゲームの参加者に! 喜ばしい実に喜ばしい」  ペリコロはテンション高くパチパチと拍手をしている。  画面の中の男は一体何をいっているのだろうか、言動が本当にふざけている。ゲームはどちらかというと好きな方のナキリにとっても、ペリコロの言動は気味が悪かった。 「悪いけど、私はそんなゲームに興味ないから」  キッパリとゲームをやらないことを伝えたナキリだが電話が繋がっているわけでもないのに、画面に向かって怒鳴る姿は側から見ると気味が悪いだろう。  しかし、なぜかナキリの言葉とキャチボールをする方ようにペリコロは会話を続ける。 「あらー、それは困りましたね。ナキリ様がゲームに参加されなければ、世界は大変なことになってしまいますよ」 「あっそ、ゲームの世界の話でしょ」  ゲームの最初に伝えられる物語に入り込むための決まり文句だと思ったナキリはそんなしょうもない脅しでびびってゲームに参加なんてするわけがないとペリコロの言葉を一刀両断した。  そんなナキリの言葉にも狼狽えることはなく話を続けるペリコロ。 「いえいえ、とんでもないもちろん現実世界の話なので安心してください!」 「……え? 現実世界ってどういうことよ」 「そのままの意味ですよ、ナキリ様がミッションをクリア出来なければ死人が出る可能性があるのです」 「それって、私が死ぬってこと……」  ペリコロの言葉に少しだけ狼狽えたナキリは、ベッドに寝転がる体勢から体を起こし姿勢を正した。勝手に入っていたアプリを押しただけで脅迫されるなんてあり得ないが緊張がナキリに走る。 「いいえ、ナキリ様が死ぬことはないでしょう。ただ貴方の行動次第で他者が死ぬかもしれないのです」 「何それ……冗談でしょ」 「冗談などではございません。ナキリ様の友達や家族、あるいは全く知らない人物が死ぬことになるかもしれないのです。とにかく大変なことになるのは間違いないのです」  今までのヘラヘラとした薄っぺらい喋り方ではなく、少しドスの効いた声で恐ろしいことを言ってくる画面の中の仮面の男にナキリは唾を飲む。  ナキリは少し怖くなりとりあえずミッションの内容だけを聞くことにした。 「わかった、とりあえず参加するからそのミッションが何か話してよ」 「本当ですか! ではではこちらのミッションカードをお読みください。なーに最初のミッションはちょっとしたリハーサルみたいなものですから気楽にいきましょう」  先程の低い声とは打って変わり明るいトーンに変わったペリコロは姿を消し、画面には黒の背景に一枚の"ミッション1"と書かれたカードが写し出された。
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