ミッション1

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「ねーちゃんご飯!」  扉の向こう側から弟のソウタの声が聞こえ、部屋にある時計を見ると時刻は午後6時になるところだった。タイムリミットの時間はもうとっくに過ぎており、日曜日というものはとにかく時間の流れが早いものだとナキリは小さなため息をついた。  夕飯を食べるためダラダラとベッドから起き上がったナキリは机にポケホを置いたまま一階に降りた。  すでに父と母、ソウタは机に座っておりテレビを観ながらナキリが来るのを待っている状態だった。  しかし三人はナキリが椅子に座っても夕飯を食べ始める様子はなく、テレビが置かれている方を向いたままだった。  不思議に思ったナキリは皆と同じテレビのある方を見る。そこにはニュース番組が流れており都心の交差点とリポーターが映し出されていた。画面が切り替わり上空の映像が映し出され、リポーターが事件の内容を話し始める。 「今日午後五時に交通量の多い都心の交差点の信号機が、なんらかの影響で誤作動を起こし車数十台と歩行者数十名が巻き込まれる大事故が発生しました。怪我人は多数出ましたが幸いにも今のところ死者は出ていません」  ナキリは事故の起きた時間を聞き一瞬背筋がぞくりとした。事故発生時刻はちょうど午後五時、ミッションのタイムリミットの時間もちょうど午後五時だったからだ。  偶然だろうそう思うことにしたナキリは、いただきますと手を合わせ小さな声で呟くと、箸とお茶碗を持ち夕食を食べ始めた。  そのあともリポーターが事件現場の状況を的確に話していたが全く耳に入ってこず、他の三人もテレビの画面から目を離し夕飯を食べ始めていた。 「怖いわね、信号機が両方とも青を表示するなんて」 「誰かが間違えて青にしちゃったのかな?」 「信号機はコンピューターが制御してるから間違えることはないと思うけど、もしかしたらウイルスが侵入したのかもな」  ソウタの言葉に父が的確に答える。私は父の発した"ウイルス"という言葉に敏感に反応した。「ポミックを倒せ」とミッションに書かれていた内容にはそう書かれていた。ペリコロはポミックはウイルスに感染して悪さをしていると言っていた。  ナキリはまだご飯が残っているお茶碗とお箸を机に置くと、何も言わずに椅子から立ち上がり階段を駆け上がっていった。 「ちょっとナキリ! ご飯まだ残ってるじゃない!」 「どうしたんだ?」  母の止める声も聞かずにナキリは急いで二階に上がり自分の部屋の扉を開ける。部屋に置きっぱなしにしていたポケホを掴むと電源を長押しして急いで電源を入れる。 「早くついてよ!」  あっという間に過ぎるはずの時間がこの時だけはとても長く感じた。  画面が明るくなりいつものホーム画面が表示される。そこには先ほどと同じアイコンがまだしっかりと残っていた。  ナキリは急いでそのアイコンをタップしてアプリを開く。  さっきと同じ真っ暗な画面に変わりペリコロが現れる。 「どう言うことなの! あの事故ってまさか」 「だから言ったではありませんか、大変なことになると……幸いにも今回は怪我人だけは出ずに済んだようですが、次はどうなるかわかりませんよ」 「次?! まだ続くの」 「今回はリハーサルみたいなものだと言ったではありませんか……それでは今回はこれにて終了となります。次のミッションをお待ちください」 「ちょっと! 待ってよ!」  先程とは全く立場が逆転したナキリとペリコロは、ナキリの焦る声も聞かずにペリコロは画面から姿を消してしまった。  一気に力が抜けてしまったナキリははベッドに倒れ込む。    さっきの事件はきっと偶然だろう。ペリコロはナキリのせいと言っていたがそれを証拠づけるものは何もない。  身に覚えのないメールなんかがもしきたら無視するようにと学校の防犯教室で学んだことを思い出す。とにかく無視だ。  その後ナキリは不安になりながらも自分には関係ないと言い聞かせながら、何事もなかったかのようにいつもの夜を過ごした。    
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