3人が本棚に入れています
本棚に追加
次の日、新たな一週間、誰もが憂鬱に感じる月曜日が始まる。
いつものナキリだったら嫌々ながらに起床するのだが、今日のナキリはいつもと様子が違っていた。昨日の不気味な出来事で一人で家にいるのがなんだか怖くなっていたナキリは、いつもよりだいぶ早起きして学校に行く準備をしていた。
そんなナキリの姿に父と母は目を見開いて驚いていた。母は熱でもあるんじゃないかとナキリのおでこに手を当ててきたぐらいだ。
そんな両親は放っておきさっさと家を出て学校に向かったナキリだが、怖さの原因であるポケホはいつも通りセーラー服のスカートのポケットの中に入っていた。本当は持って行きたくなかったのだが、家に置いておくのも少し怖かったので悩みに悩んだ末持っていくことにしたのだ。
いつもは登校時間ギリギリの5分前に到着するナキリだったが、今日はいつもより30分も早く学校に着いてしまった。早く学校に来るのは中学生になって初めてだったが、体育館からは朝練をしているシューズと床が擦れるキュッキュとした音やボールの跳ねる音、吹奏楽部の楽器の音が聞こえる。
リンも朝練があって大変だと嘆いていたがどこか楽しそうにしていたとナキリは思い出していた。
誰もいない静かな廊下は上履きの音がよく響く。まるでこの世に自分しかいないかのようでドキドキしてしまう。ナキリのクラスは1年A組で、1年生は全部でA組からC組までの3クラスあった。
A組は一番奥の教室なのでC組とB組の教室を通った先にある。いつもだったら入るのを遠慮する他クラスの教室を堂々と入れるのは学校を早く着いた者の特権だ。
C組の教室を覗くとやはり誰もいない。きっともう早く来ることなんてないと思ったナキリは、思い出にとC組の教室を遠慮なく通り、廊下に出た。隣のB組の教室も同じように通ろうと先ほどのようにしっかり確かめもせず鼻歌混じりに足を踏み入れた。
何を思ったのか窓際に歩いて行き外を眺める。
「おー! なんかいつもと違う景色」
隣のクラスというだけなのに全く違った景色に見えるのは何故だろうかと、朝からテンションが上がったナキリはいつのまにか感動のセリフを口に出していた。
「朝からうるさいんだけど」
誰もいないと思っていたいないはずの教室から声が聞こえ肩をびくりと震わせたナキリは急いで声のする方を振り返る。そこには本を片手に持った黒髪でかなり整った顔だちの男子生徒が座っていた。
どこかで見たことがあると一瞬思ったなナキリだが、ばっちりと男子生徒と目があってしまっいまさか人がいるなんて思ってもいなかったため動揺してそれどころではなかった。
彼はナキリの顔をじーっとみて眉間にしわを寄せる。
「あんたこのクラスの生徒じゃないだろ」
あけぼの中学校はそんなに人数が多い学校ではなくナキリの学年は3クラスでひとクラス30人前後なため、学年で100人ほどの生徒数だった。
入学して一ヶ月も経てば、学年全員の顔と名前は覚えられずともほどのため同じクラスメイトの顔と名前ぐらいは覚えているだろう。
テンションが上がって入ったなんて言ったら変な人だと思われるに違いない。中学生になってまだ一ヶ月しか経っていないのに変人扱いは流石に困るとナキリはどう誤魔化そうかと朝から頭をフル回転させた。
「えっと……あれ! ここB組だった! あらら私ってドジ〜隣のクラスに入っちゃうなんて」
「……入学して一ヶ月も経つのに未だに間違えるのかよ」
どうやらナキリのわざとらしい演技に男子生徒は軽蔑の目を向けているものの、なんとか誤魔化すことができたようである。
すでに読書を再開している彼を邪魔をしないようにそろりそろりと教室を出たナキリは、大人しく自分のクラスの自分の席に座った。
やはりいつもと違うことはするもんではないと後悔しながら、まだ誰もいない教室で机に伏せて時間になるのを待った。
最初のコメントを投稿しよう!