ポケットフォン

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ポケットフォン

 今から五年ほど前、子どもでも使える安心安全なスマートフォンとして、大人気玩具メーカー「メタトロン」社が開発した、"ポケットフォン"。  今では小学生なら誰もが持っている通信機能搭載のおもちゃとして絶大な人気を博していた。  徹底したネットワーク制限により、大人からも信頼される商品となっていた。 ◇◇◇  ここにもやっとのことでポケットフォン通称"ポケホ"を手に入れた少女が一人……。 「じゃーん! 見てみてポケホ!」  中学校の入学式の次の日、まだ新しいクラスでお互いに辿々しさが伺える教室で、南雲ナキリは小学生からの幼馴染である、出水リンに買ってもらったおニューのポケホを見せびらかしていた。  小学生からのトレードマークの二つ結びのお団子ヘアをきっちり決め、ピンク色の可愛らしいポケホをリンの目の前に差し出している。  そんなリンはナキリのポケホを見てため息を吐いた。 「やっと手に入れたのね……ナキリ遅すぎ」  今や小学生でも当たり前のように持っているポケホだが、ナキリは中学に上がりやっとのことで手に入れることができた。  特に家が貧乏というわけではないのだが、ナキリの母親はどうにも機械音痴で子どもに通信機器を持たせることが心配でなかなか買ってくれなかった。  小学生がよく使うお決まりのセリフ「クラスの全員が持っている!」の真実は、そのほとんどが数名しか持っていないというオチだ。  しかしポケホに関しては持っていないのはナキリと流行り物に興味がない変わった生徒ぐらいだった。  中学に上がってからと小学生の時は取り合ってもらえず、ナキリの必死のお願いも虚しく小学生の間は肩身の狭い思いをして過ごしていた。  やっとの思いで手に入れたポケホは、母曰く最新版らしい。 「何、どうかした?」  何か気になる部分でもあったのだろうか、リンはナキリのポケホをじっと凝視していた。 「ナキリこれポケホによく似たパチモンだよ……」  パチモンつまりメタトロン社の商品に似せた偽物ということだ。  ポケホはメタトロン社が特許を取得しており、メタトロン社が開発した物だけが、ポケットフォンとしての販売が認められている。  その為違う玩具メーカーがポケホに似た商品を出しても買うものは殆どおらず、メタトロン社の独占状態となっていた。  一時期はポケホの偽物に注意というニュースが流れていたが、最近では他のメーカーからの偽物販売の噂は流れ無くなっていた。  それなのにやっとの事で手に入れたポケホが偽物だと幼馴染で信頼できるリンが言う。 「う、嘘でしょ!」  ナキリは持っていた自身のポケホを隈無く調べる。  しかし、初めてポケホを持つナキリには正直違いがわからない。  するとリンはスカートのポケットから自身のポケホを取り出し、ナキリのポケホと並べて見せた。 「ほら、デザインが少し違う……これどこで買ったの?」 「お母さんが買ってきたからわかんない」  昨日家に帰ると母がポケホを買ってきたとナキリに渡してきた為どこで買ったのかは母にしかわからない。そういえば箱にも入っておらず直で渡されたことを思い出す。  機械音痴の母ならパチモンを買わされても気づかないだろう。どうして自分も一緒に行かなかったのかと今更ながら後悔する。 「でも、使えてるならいいんじゃない」 「まぁ、そうなんだけど……」  待ち続けてやっとの思いで買ってもらえたポケホがまさかの偽物というのはナキリにとってかなりショックなことだった。  そんなナキリを励ますように、リンがメッセージアプリの連絡先の交換を提案してきた。偽物ではあるものの交換も特に支障もなく行うことができた。  放課後になる頃には少しだけ元気を取り戻し、帰ったら電話をしようと約束し二人は家に帰った。  この時の少女は知らなかったのだ、まさかこの偽物ポケホのせいで、とんでもない事件に巻き込まれることになるなんて……
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