砂漠で犬が吠えている

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 昨日よりは人を受け付けない雰囲気を軽減しながら市役所の建物は私を受け入れる。——市役所は仕方ないから受け入れているだけで本当は誰も寄せ付けたくないはず。仕事中の私のように。本当は誰も来ないで欲しいし、それが避けられないなら、少しでもまともな客が来るように祈っている。  市民課の窓口とマイナンバーの窓口の番号札を出力して待つ。世帯合併とマイナンバーカードの更新と印鑑も届け出て、戸籍は一週間以上掛かるらしいので住民票を貰って……。  改姓に伴って私がしなければならない手続きは二十四ある。市役所で行う手続きはそのうちのたったの四つだ。その後警察署に行って免許証の氏名変更をし、三つの銀行口座の氏名変更、家計用の口座の代理人カードを作り、八枚のクレジットカードの氏名変更と口座変更、不動産会社とライフラインの会社に電話を掛け、社内に書類を提出して……。本当に二十四で全ての手続きが網羅できているかどうかは怪しい。 「四十一番の方、二番窓口までお越しください」  二枚ある番号札のうちの一枚が呼ばれたので、先にマイナンバーの窓口へと向かった。だが結局市民課で婚姻届が受理されたかを確認の上、世帯合併の手続きをしてから来てくださいと突き放され、更に待つことになった。最初に出した七百三十二番の番号札はもう無効になっている。改めて出力した番号札は七百三十九番。あともう二人か三人のはずなのに、一向に進まない。 「四十二番の方、二番窓口までお越しください」 「七百三十八番の方、五番窓口までお越しください」  一瞬立ち上がりかけて、もう一度椅子に腰を下ろし本を開く。私の番号はまだ呼ばれない。あまりに待たされすぎて、いよいよ本も読み終わりそうになった。一冊じゃ足りなかったかもしれない。SNSを駆使して愚痴を吐き出すが、充電と体力ゲージが減るのみで得られるものがない。
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