砂漠で犬が吠えている

　ああ、どうしてこの場にいるのか分からなくなってきた。何のためにここにいるのだろう。世の中のセオリーに従って改姓することになったけれど、苗字を変えたいという希望があったとは言え私がここにいる意味とは？　家賃も電気もガスも私の口座から引き落としになっているから、家計用の口座も私の名義にして手続きも私が全部した方が早い。土日休みの旦那より、融通の利く私が手続きした方が。自分でそう決めたこととは言え、いい加減待たされすぎて頭が沸騰してきた。
　ここにいたのが私でよかった。もしも私ではなく旦那がこの場に居たならば、スマートフォンの電源が切れた時点で湧いたヤカンのように高音を奏で、職員を威嚇したことだろう。旦那も職員の人ももっと我慢強い私を崇め奉ってもいいはずだ。
「七百三十八番の方、七番窓口までお越しください」
「四十三番の方、二番窓口までお越しください」
　また七百三十八番だ。別の窓口へ呼び出されているのに、どうして五番の窓口はいつまで経っても進まないのか。どうして一気に手続きを済ませてくれないのか。何のためのマイナンバーカードだ。全部変えてくれたらいいのに。携帯電話のお店も、クレジットカードの電気とガスの入会手続きはできるくせに改姓手続きができないって何。ETCカードを持っている場合は十分以上繋がらない有料の回線に電話しないと手続きができないとは？　まとめた意味がない。