砂漠で犬が吠えている

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 空想の世界で呼び出しの度になる音が、まるで砂漠に吹き荒ぶ風のように繰り返される。一体この砂漠はどこまで続いているのだろう。番号が呼ばれる度に空想本に栞を挟むが、開く度に内容が変わっていく。嵐の度に少しずつ風景が変わっていく。共通点は砂漠を行くことだけ。砂漠の果てに何が待ち受けるのかはまだ分からない。 「七百三十八番の方、二番窓口までお越しください」 「五十一番の方、五番窓口までお越しください」  絶対に次に呼ばれるのは私だと思っていたのに、また違う人が呼ばれている。これだけ時間が掛かっては、今日はもうどこにも行けないのではないか。せめて免許証があればWEBでクレジットカードの手続きを進めることもできるのに。自動ドアの向こうから犬の声が響いて、また私の意識は砂漠へと舞い戻る。  幾千日を歩き続けた先、赤い河のほとりに辿り着くだろう。目指す場所は遥か遠く輝く黄金の城。肌だけでなく髪も日に焼かれ、黄金色に輝くことだろう。幾千の嵐の夜を超え、駱駝の背に揺られ辿り着くのはいつの日か。痩せこけた犬が共として付いてくる。役所の外の電柱に括り付けられているに違いなかった。
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