砂漠で犬が吠えている

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「七百三十九番の方、五番窓口までお越しください」  ああ、ようやく私の番だ! 勢いよく立ち上がり、指定した窓口へと向かう。ここまででもう二時間弱待っている。必要な書類はもう全部記入済みだ。呼ばれてしまえばこちらのもの。後は提出された書類が一つずつ処理されればすぐに解放されるに違いない。一通りの書類を確認すると、窓口の女性はあろうことかこう切り出した。 「昨日婚姻届を提出された方でお間違いないですか? 受理されているか確認しますので座ってお待ちください」  すごすごと引き下がり、再びクッション性も何もない固い椅子に座る。一体何が起こったんだ? 確かに番号を呼ばれたはずなのに。窓口のお姉さんが一つずつ仕事をこなしているのは理解できる。後ろのあの薄暗い、経費削減のために電気が消されたエリアで蠢く人影は一体何だと言うのか? マイナンバーの窓口のおじさんは私の婚姻届の状況を五番の窓口の後ろの人に確認に行ったはずだ。そこで確認は終わっているはずではないか? これがお役所仕事と言うやつか。全員が同じことができる代わりに、確認ができたことを引き継ぎはしない。  空想の世界に(たらい)が落ちてくる。落ちてきた盥を犬が足で回し始める。カラカラと音が鳴る。盥の中に水は一滴も入っていない。鎖が括り付けられたポールに当たっているらしい。犬が盥を回せば回すほど、視界は砂で煙っていく。
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