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このまま、創太に謝らせたままにはしたくなくて、未来は小さく深呼吸をした。
「…創太、ごめんね。一緒にいる時、無神経だったよね、私。」
思ってもみなかったことを言われた創太は、目を見開いて、えっ?と小さく呟いた。
いかに青島が、素晴らしい上司なのかということを、創太も同じ気持ちでいると思い込んで、話をしていた自分と、それを聞いていた創太は、どんな顔をしていたんだろう。
でも謝ったところで、結局それも、自己満足のような気がした。
「確かに嫉妬したかもしれないけど、つき合っていた時の未来のことは、信じていたよ。」
創太の言葉に、突然、未来は立ち上がり、首を大きく振った。
「やっぱり、これ以上は止めよう。何をどう話しても、申し訳ない気持ちにしかならないの。創太は何も悪くない。」
「ありがとう。ごめんね。控室に行ってから、会場に戻るね。」
未来の目には涙が浮かんでいて、創太は立ち上がることが出来ずに、黙って頷くしかなかった。
ひとりになった創太は、ふと、視線を感じて顔を上げた。
同年代と思われる男と目が合って、会釈をすると、相手も足を止めることなく、頭を下げた。
会場では、一向に戻ってこない2人に、さすがに皆も気になってきたようだ。
「久しぶりに再会して、盛り上がっているのかな。控室では、よそよそしい感じだったけど。」
と言う優子の言葉に、青島は盛り上がって貰っては困るんだよ、と心の中で呟く。
野暮なことはしたくないと思いつつ、ちょっと失礼します、とその場を離れた青島だったが、知っている顔を見つけて、声をかけた。
「本田社長、ご無沙汰しております。青島です。」
未来が世話になった藤森の雇い主である。
「青島君も来ていたんだね。久しぶりに会えて嬉しいよ。」
ロマンスグレーの上品な男性は、さっと右手を出すと、青島と握手を交わした。
「おひとりですか?」
と青島が聞くと、いや、と周囲を見渡した。
「お会いしたことありましたかな?部下の藤森という者と一緒です。今回のコンテストで受賞した2人は知り合いだから、どうしても参加したいと言いましてね。」
「だけど、いざ連れて来てみたら、2人とも女性じゃないですか。いい奴なんですが、女性に対して、口説くのが礼儀と思っている節があるんで、いい加減なことはしてくれるなって言うと、1人は既婚者ですよって笑うんですよ、全く。」
青島は無理矢理、笑顔を作り、実は、と切り出した。
「既婚者ではないコピーライターの女性は、私の元部下でして。」
それを聞いた本田は、嬉しそうに青島の手を取ると、大袈裟に振ってみせた。
「それは、おめでとうございます。」
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