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レッドカーペットを進むと数段の階段に突き当たります。
この階段の上に、皇帝と皇后の座る席が用意されているのです。普段は2人でそのまま手を取り合って登るのですが、今回は違います。
皇帝は新しい側室を任命するため、階段の前で待機し、皇后だけが席に向かうのです。
毎年のことではありますが、公式の場で皇帝を見下ろす機会があるのは何とも不思議なものです。
私は陛下に一礼をして、1人で席に座ります。
側室が夫である陛下と並んでレッドカーペットを踏めるのはこの一度だけです。
側室の誕生日であれ、息子の誕生日であれ、皇帝と並ぶことは許されないのです。
それは国が平穏であること、それは一重に皇帝と皇后の仲が睦まじいことの他ないというのは暗黙の了解でした。
どんな時でも皇后を立てることを念頭に置いているのです。
陛下は階段の下で、私が着席したのを見ると微笑み、周囲を目線だけでチラチラと確認しました。
恐らく皇妃を探しているのでしょう。
皇妃にも気合いが入っている、浮かれている、と思われていないか気が気ではないようです。
陛下は私より5つ歳下なこともあり、そのような行動にも愛おしさを感じます。
まるで幼い弟を見るような気持ちになるのです。
私が側室を迎えても落ち着いていられるのは、こういった気持ちがあるからかもしれません。
そして、いよいよその時が来ました。
「ペリー二・モートリーニ伯爵令嬢のご入場です」
その声で会場は静まりかえります。
皆が一目見ようと、先程よりもレッドカーペットに一歩足を近づけるのが分かりました。
私もまだ見たことがないので、少し前のめりになったかもしれません。この会場の中で、逆に後ずさりしたのは皇妃だけではないでしょうか。
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