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レッドカーペットのちょうどの真ん中で伯爵の腕を離します。
ここで、かつての実家を離れ、これからは新しい家庭を築いていく、という表明の儀式なのです。そっと離された腕を見て、伯爵は「幸せになりなさい」と告げました。これは彼の本心です。娘を政治のための道具のように扱っている伯爵ですが、娘のことを愛していました。恐らくペリー二が並の可愛らしさであれば、一貴族の正妻へと嫁がせていたでしょう。ただ、自分の娘は違いました。見た目の可愛らしさはもちろんですが、それだけではありません。かつて出世のことしか頭になかった自分が、大して身分の高くない男爵家の令嬢に心を奪われ、結婚したのです。予定とは違っていましたが、この女性のために何としてでも出世してやろう、と思わせてくれる、自分の妻そっくりの愛嬌を持ち合わせていました。皇帝は気前もよく、優秀な君主ですが、男女の恋愛について疎いわけではありません。恋愛というものを知っている男性なら、自分の娘を素通りすることなど出来ないはずなのです。
そう確信があったからこそ、彼女を後宮へ送り込んだのでした。
ペリー二はというと、親元を離れる寂しさや感動を感じているのか、いないのか…すっかり目の前の皇帝へと目を向けていました。
この人こそが私に相応しい男性だと信じて止みません。
皇帝など、身分が高いだけの男かと思っていたペリー二ですが、自分の目の前に立つ男性は確かに誰が見てもこの帝国一の男性でした。逸る気持ちを抑えられず、今にも飛び立ちそうなほど軽い足取りです。
その世間知らずな無邪気な様も、今夜の会場に集まっている人々には天使のように微笑ましく、可愛らしい姿に映るのでした。
陛下がレッドカーペットの中央まで足を進めます。
伯爵が一礼し、皇帝がついにペリー二の手を取りました。
周囲の人々が溜め息を漏らし、トルドーに至っては既に泣いています。
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