6人が本棚に入れています
本棚に追加
皇宮の前に馬車が到着すると、門を護っていた騎士たちが一斉に道を開けます。
舞踏会は夜からなので、他の貴族たちはまだ集まっていないのです。この時刻に豪勢な馬車で宮殿へ訪れる者は、新たな側室になる者だと騎士も毎年のことなので知っています。
道を空けて少しだけ頭を下げながら、目線をあげてその噂の女性を見るのです。
薄ピンクのウェーブのかかったロングヘアに、透き通るような茶色の瞳、桃色の頬と唇が美しさを際立たせます。
お色直しも必要なさそうなほどに可愛らしいその女性を見て、騎士たちはガックリと肩を落とします。
「この女性が例年通り、側室に名乗りを上げなければ、先の戦で手柄を立てた自分のものになったかもしれないのに」
そうしたら、これから起こるであろう悲しい想いなどさせないのに…と。
騎士たちの眼差しを受けながら、ペリー二の足取りはとても軽やかです。
「皆が私を見てるわ。例え真面目で屈強な騎士でさえも私の魅力には目を背けることは出来ないようね」
伯爵家の中で、恐ろしいほどに膨れ上がった自己肯定感と周囲のわずかな者たちによって満たされていた承認欲求が、今大勢の目に触れたことで更に大きくなるのです。
通常の貴族の令嬢ならジロジロと見られることを嫌い、どんよりした気持ちになるものですが、彼女にとっては自分の美しさを証明する絶好の機会です。
少し外見の優れた騎士の視線にわざと目を合わせ、悪戯に微笑んで見せたりします。
高貴な女性が、目が合うだけで微笑む…というようなことは決してしないので、この騎士は数日眠れない夜を過ごすことになるでしょう。
最初のコメントを投稿しよう!