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両片思いに物申す
「メリッサ様、旅行に行かれるのですか?」
「そうなんです。短い旅ですし、少人数で気軽に楽しんでこようと思っていまして」
今日は侯爵令嬢メリッサ様と一緒にお買い物をしているんだけど、なんと旅行に行くんだって。うらやましいわ!
「少人数の旅行、気兼ねしなくて良いですね。どなたと一緒に?」
「リリアお姉様と、聖女エミリー様と、あと私の従者で、ドルン領まで行ってこようかと」
うわっ! メリッサちゃん、そのメンバー選択はどうかと思うよ。
だって、どう考えてもそれ旅行じゃなくて、お笑いコンビ『カタハライタイ』の地方営業だよ。
それと、なんでメリッサちゃん、ちょっと顔を赤らめてるの?
はっ、もしかして……!!
「メリッサ様、もしかして一緒に行く従者って、男性ですか?」
「えっ……?」
あらやだ、図星じゃん。
「それで、その従者の男性のことが好き……とか?」
「やだっ! タチアナ様、どうして分かるんですか?!」
ほらほら、やっぱり来たよ。
私の予想、バッチリ当たったね。
私くらいのレベルになるとさ、大体予想がついちゃうんだよね。
その従者もきっと、メリッサちゃんが好きなのよ。つまり、両片思いってやつ。
この後の展開も、全部予想できる。
四人でドルン領に旅立つでしょ? そうしたら、途中でハプニング発生するの。宿泊する予定の街にたどり着く前に、大雨による土砂崩れで道がふさがれちゃうっていうのがありがちだよね。それで、リリア様とエミリーちゃんの二人と、都合良くはぐれちゃうの。
困ったメリッサちゃんと従者くんが急遽予約した宿には、一部屋しか空きがない。両片思いの二人は同じ部屋に宿泊することになるんだけど……。
その続き、分かるよね?
そう!
ベッドが一つしかないの!
ありがちーっ!!
実は私、このパターン大好物なんだよね。
『私が床に寝るから、従者くんはベッドを使って!』
『いやいや、お嬢様。そんなことはできません。俺が床に寝るからお嬢様はベッドを』
っていう床の争奪戦テンプレのあと、二人は同じベッドで寝ることになる。それで、ドキドキキュンキュンするのに結局何も起こらず、メリッサ様が先に寝ちゃうの。それを見た従者くんが悶々として寝不足になる。
……ありがちーっ!!(2回目)
あ、もう一つ忘れてた。
ベッドに寝る時にね、ベッドの真ん中に境界線を作るの。
『この線から入っちゃダメ!』
みたいなやり取りね。
で、結局寝相が悪くて、メリッサちゃんが夜中に境界線超えちゃうんだよね。
ありがちーっ!(3回目)
だって、当然だよ。あの境界線って大体、簡単に乗り越えられちゃうような造りになってるからね。本気で境界線を作るならいくらでも本気出せると思うのに、その程度の線しか作らないっていうのは#そういうこと__・__#よ。超えちゃっていいってことよ。
本気で境界線を死守したい人がいるなら、私はいくらでも協力するよ。大事だよ、ソーシャル・ディスタンス。
布に貼れる立体テープとかどう? 水で濡らしたら一気に膨らむ材質で、ベッドの真ん中にそびえたつ壁ができるような感じの商品。
……あ、シーツが水で濡れちゃったら困るか。
天井からカーテンを吊るすのは?
それも、裾がひらひらの布だったら意味ないわよね。ダメよ、もっと頭を使いなさいタチアナ!
「タチアナ様、どうされましたか? 顔色が悪いです」
「メリッサ様……ベッドが一つしかないのに二人で眠ることになった時のリスクヘッジ策を考えていたのです」
「なるほど。寝袋を持参しては?」
「……それだ!」
いいね、メリッサちゃんは予想以上にたくましかったよ。
これで私も安心安心。
この数年後、私は省スペースでも保管できる折り畳み式のエキストラベッドを開発。全国の宿屋に販売して財を築くことになった。
そして、そのエキストラベッドの普及と共に、全国の両片思いの人たちによる床の争奪戦を全て終息させ、世界平和に寄与したのでした。
(おしまい)
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