最終話

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そんなやり取りがあったのが10日前。 私たちはお互いの気持ちを確かめ合い、了承した上でいったんそれぞれの道を歩むことになった。落ち込んだり樹に電話をかけまくったりするのかもしれないと思っていたが、まったくそんな風にはならなかった。以前と違うのは、朝起きて、キッチンカウンターにある置きカレンダーの日付を変える時、「樹が出発してから何日目」と数えてしまうことだけだろう。 以前のように、1人でこの家を切り盛りする生活に戻ったが、不思議とアタフタするようなことはなかった。1人でもやれるものだなと、「なんでバイトを雇おうと思ったんだっけ?」なんて思ったりすることもあった。 しかし、夜になると樹の匂いを求めてしまう自分が顔を出す。枕を抱きしめては樹を想い、目を閉じれば樹のくちびるが重なっているかのような錯覚を覚えた。そのたびに自分の弱さに驚く。こんな弱い自分もいたのだなと。樹を知る前まではこんな気持ちになったことも錯覚を覚えるようなこともなかった。樹が言っていた恋や愛という名の気持ちを私も持ち合わせていて、私なりの感じ方があったようだ。 「樹が恋しい…」、その気持ちに嘘はなかった。
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