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夕方5時半、今日の業務を終えて樹は自室へと戻っていった。私もエプロンを外し、部屋に入ろうとした。ちょうどドアの開閉が樹と重なった。お互いが一時止まったが、私はすぐに部屋に入った。それなのにすぐにドアが開き、振り向くとそこには樹が立っていた。樹は部屋に入って後ろ手でカギをかけると、、私を強く抱きしめた。付き合い始めてから当たり前のように嗅いできた樹の匂いをもうこれから近くで感じられなくなってしまうと思った途端、涙が溢れ涙腺が決壊してしまった。嗚咽を出して泣く私の背中を優しく何度も撫でてくれた。
「樹里さん、オレやっぱりスウェーデン行くことにしたよ。もう少し世界を見てみたいんだ。」
「うん、わかってた。樹は自由に羽ばたいていくって。こんなところで終わらないって」
「一度行って樹里さんとのこれからを良く考えてみる」
「え?」
「オレが別れたくないって一方的に言っても樹里さんは別れたいっていうから、あっちに行って2人のことを考えてみる。オレは旅を続けたいのか、樹里さんといたいのか」
「なんかごめんね。樹をつなぎとめていたのは私よね。本当にごめんなさい」
「違うよ、オレが樹里さんを好きすぎて手放せないから悪いんだよ。自分の気持ちを見つめ直してくるから、別れる判断をするのを待っていてほしいんだ。自分勝手で本当にごめん」
「わかった。いつ出発するの?」
「明後日には行く」
「明後日!?」
「うん、早く答えを出したい」
「わかった。ねぇ樹、今日だけ思いっきり甘えていい?」
「もちろん!」
「今日はこの部屋で2人きりでゆっくり過ごしたいの」
「オレもそう思ってた」
素直になれない気持ちを樹が溶かしてくれたおかげで、素直になることができた。私も意地を張らずに気持ちに整理をつける準備をしなくてはいけない。
樹に抱きしめられながら、2人でいる心地よさを噛みしめていた。
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