最終話

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樹が出発して17日目、桜は散り始め玄関前の掃き掃除が日課となっていた。ほうきでせっせと散った桜の花びらを掃いていると、はらはらと舞い落ちてくる花びら達が、樹に受け取ってもらえない自分の想いを暗示しているようなそんな風に見えてしまう。 世間は、お花見ができるくらい気候が良くなり賑わって明るい気持ちになっているのに。私は自然とため息が出てしまう。 空を見上げ、ため息をついた時、「樹里、昼飯の時間だぞ~」と、コンビニの袋を上に持ち上げ、ガサガサと音を立てながら、誠人が家に戻ってきた。 「なによ、ご飯くらい実家で食べてくればいいのに」 「やだよ、顔見れば彼女はいないのか、結婚はまだかって言われるのはごめんだね」 「それわかるわ~」 「だろ、飯買ってきてやったぞ。一緒に食おうぜ」 「誠人、いつもありがとね」 「おう」 誠人のこの小さな優しさに何度となく救われてきた。大人になった今でもそうだ。私が落ち込んでいるのではないかと思っているのだろう。何も気にしていないようにふるまっているが、誠人だけは気が付いているのかもしれない。気を使わせてはいけないと思いつつも、兄のような存在の誠人に甘えてしまっている。 ほうきを玄関脇に立てかけると、玄関を開けた。引き戸のカラカラという音に交じって、「樹里さ~ん!」と声がしたような気がして立ち止まった。ついに幻聴まで聞こえ出したのかとさえ思い始めてしまった。 急に立ち止まった私にぶつかった誠人が、「急に止まんなよ」と言った。 先に玄関に入りながら、「いや~なんか笑える話なんだけどね、幻聴が…」と言いながら振り返った。その時目に飛び込んできたのは、誠人の顔じゃなくて、その向こうに見える、腕をブンブン振りながら走ってくる樹だった。
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