最終話

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「樹里さん!ただいま~」 大きく手を振りながらこちらに走ってくる樹がそこにいた。 「樹!」 誠人の横をすり抜け、樹めがけて走った。つっかけ草履を履いているせいで、早く走ることができない自分にもどかしさを覚え、草履を脱いだ。そして、樹の胸に思いきり飛び込んだ。幻覚かもしれないと思っていたけど、抱き着いた時の感覚や彼の匂いは紛れもない本物だった。 「樹里さん、ただいま。会いたかった!」 息を切らせ、心臓の鼓動もドクンドクンとかなり大きく聞こえる。 「私もだよ!おかえり」そう言いながら涙が出て仕方なかった。 こんなにも早く戻ってきてくれたことが本当にうれしかった。まるで、ちぎれてしまった体の一部がまたくっついたかのような強い思いを感じ、何とも言えない安心感が心の中に流れ込んできた。 「オレ、海外のどの地域に行ってもワクワクするのに、今回は気持ちがまったく動かなかったんだ。街の中を歩いていても、何を見ても何を食べても全然楽しくないしおいしくない。そのことをスウェーデンに住んでる友人に話した。そしたら「それは心が別の何かに囚われているせい」だって。事情を話したら、「今のオレは彼女のところに心があるんだろう。だったら彼女の元に行かなきゃ」って言われた。それで気づいたんだ。だから一番早く日本に帰れる便を探して帰ってきた。オレ、答えが出たよ!樹里さんと一緒にいて生活することが大切なんだって」 「樹…」 樹は体を離すと片膝をついて、ポケットから何かを出した。 「樹里さん、オレはあなたがいないとダメなほどあなたを愛しています。これから先もずっと一緒にいたいです。結婚してください!」 こんなシチュエーション、マンガや小説の中だけだと思っていた。それが何の準備もなく自分の前で繰り広げられている。どうしていいかわからず、樹と前に出された指輪を交互に見るばかりで動くことができなかった。頭の中は真っ白になっている。 その時、誰かに肩をポンと叩たかれた。
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