3. 大人は嘘つき

1/1
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

3. 大人は嘘つき

大学は経済学部を選び、 商学・経営学・経済学などを学んだ。 「簿記1級」という資格を武器に就職活動は、 経理事務に絞り、企業の合同説明会へ出陣! たくさんの企業ブースが並ぶ中、 有名な大企業のブースには溢れるほどの 就活生が群がっている。 どこの説明会へ行っても、同じような風景。 白いパネルに群がる個性を消すように カラーリングされた黒髪頭。 まるで白黒写真みたい。 私はその様子を横目で見ながら、 中小企業のブースが並ぶエリアに足を踏み入れた。 するとスタイリッシュなブルーのロゴマークを 掲げているブースに、ネイビー無地のスーツに ノータイスタイルを引き立てる眼鏡が印象的な 男性〈 人事課・三枝木 〉が立っていた。 フロントとテンプルは細身のウェリントン タイプの眼鏡、超好み! 「良かったら、どうぞ」 渋くていい声...... 気付くと私は三枝木さんの目の前のスチール 椅子に座り、会社説明を受けていた。 事業内容や企業風土、社風、社内の雰囲気。 キャリアパスなど、三枝木さんの説明はとても 分かりやすかった。 私が大学で学んできたことや、希望する職種を 話しているうちに、三枝木さんは私と同じ大学 を4年前に卒業したOBだということが分かり、話は盛り上がった。 その後、一次面接、二次面接とコマを進めて いき、面接会場で三枝木さんと会うと、 二言三言、会話を交わし、緊張をほぐしてくれ、いつも応援してくれた。 「葉月さんの笑顔、とてもいいね」 〈よしっ、内定は頂いた!〉 何と言っても私は、 自他共に認める「オジサン☆キラー」。 年上の男性から好かれるコツを自然と熟知していた私は、高校生の頃からその頭角を現し始めていた。 そして高校、大学時代に出会う、様々なタイプの男性教諭で実績を積み、世間を上手く渡る術を身につけていった。 そんなこんなで、 ご縁あって私はこの会社に入社したのだ。 なので入社後、これからもお世話になるであろう三枝木さんに、一言挨拶をしたくて探したのだが見当たらない。 「あの~、人事の三枝木さんはどちらにいらっしゃいますか」 「あっ、三枝木さんは...... 3月で退職しました」 ぇえ――!! 『一緒に働くのを楽しみにしているよ』 『とても雰囲気の良い会社だから安心してね』 あの言葉は、 いわゆるリップサービスだったの! あんなに絶賛して人に勧めてきた会社なのに、 なんで辞めてるのよ! 大人って簡単に嘘をつくのね。 あの眼鏡姿に騙された...... これが私の、社会人一日目の幕開けである。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!