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動揺しつつも史織は、ミクヤを振り払おうとはしなかった。
というかコアラみたいにくっついて、彼は離れようとしない。
やがて二人の背後から、クスクスと、女子の嫌味な笑い声が聞こえてきた。
「あらやだぁ。モテモテですこと、どっかのヤンキーさんが」
史織は奥歯を噛みしめて、振り返る。
班員である日下部巴が、長いスカートの足を止めて、上から目線でミクヤたちをながめ回していた。巴は左右の手に、髪をかわいくリボンで結わえた女児、二人をつれている。
まだ赤ら顔をした史織が、吠える。
「てめっ、面白がってないで助けろよな」
「やん、巴、コワーイ。良い子たち二人が泣くといけないから、お外で遊びましょうねー」
「はぁーい」
「ともえちゃん、うさぎさん、すき? いっしょに、葉っぱのごはんあげよう」
「もちろん。私も大好き! ふわふわのうさぎさん。さあ見に行きましょ~」
女児は二人とも、行儀よく、落ち着いてもいた。三人でニコニコしたまま、日光の差す屋外に出てゆく。
「ったく。クソ、ああいうのなんかイイよな……どうやったら女の子に慕われるんだろ」
目で追いながらぼやいた史織を、ミクヤはもう一度、黙って見つめた。
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