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「ちょっとアンタ、酔っぱらってるわけじゃないよな? さっきから様子が変だぞ」
「酒には酔ってない。那月に酔ってる……って感じ」
しゃがんで頭を抱える視線の先には、名前がわからないオレンジ色の花が、道端に一輪だけ生えていた。この寒空の下で、風に揺らされても寒さを感じさせることなく、可憐にゆらゆら揺れている様子は、那月によく似ていると思った。
「俺に酔ってるなんて言葉が出てくること自体、寝ぼけてるとしか思えないけどさ」
「那月にはその……、俺を好きになってほしくて」
変な会話からの告白――マジで格好悪いことこの上ない。
「なんだかなぁ。藤原はホント、我儘な男だよー。かわいい彼女じゃ物足りなくて、俺にまで愛情を強請るとか、マジで信じられない。どんだけ貪欲なんだよ」
「実は彼女とは別れてるんだ。おまえに声をかける直前に別れてる」
風に揺れている、オレンジ色の花を見ながら喋ったら、言い出せなかったことが、すんなりと口から出てきた。
「は? 別れてるだって?」
「うん、俺から別れを切り出したんだ」
「またしても嘘をつくっていうのか。大学構内で一緒にいるところを、俺は何回も見てるんだからな」
スマホのスピーカーから聞こえてくる那月の声には、明らかな怒気が含まれていた。叱られ慣れない俺は、それを耳にするだけで気分が落ち込んでいく。
「それは勝手にアイツが、俺につきまとってるだけなんだ。今でいうところの、ストーカーみたいになっていて、正直困ってる」
「マジなのか、それ……」
「ああ、本当。俺はずっと那月のことが好きだったから、誘いまくっていた」
「やっ、ちょっと待てって。いきなり、そんなのことを言われても――」
聞いたことのない照れを含んだ那月の声が、スマホから聞こえてきた。
「こんなありふれた言葉なんか、他の男からも散々言われて聞き慣れてるだろうけど、俺は真剣におまえのことを想ってるから」
「なんで今ごろ、そんなことを言い出すんだっ! 俺とヤる前に、彼女と別れてたくせして!! そういうことはもっと早く言うべきものだろ!」
「……俺以外とエッチしてる那月に、自分の気持ちを言う勇気が、どうしても出せなくてさ」
「アンタが早く告ってくれたら、俺は悪い男を装わなくて済んだのに」
「悪い男?」
「藤原のバカ! ヘタレ! ヤリチン!」
罵倒する言葉を他にも言い続ける那月に、なんて返事をしたらいいかわからなくなってくる。
好きなヤツに容赦なく悪口を告げられて、平気でいられるほど、できた男じゃない。
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