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「おいおい那月ぃ。それはちょっと、言い過ぎなんじゃないか」
「アンタにはこれくらい言わなきゃ、俺の気が済まないんだってば。マジでバカらしい。無意味なことを、体感しまくりじゃないのさー」
「なんだよ、それ」
感動させる告白じゃなかったが、こんなふうに怒鳴られる覚えはない。なにがいったい、どうなってしまったんだろう?
「あ~もう!! 抱かれるたびに俺がどんな気持ちでいたか、藤原は全然わからなかっただろうさ!」
「抱かれるたびにどんな気持ちって、そうだな。「やっぱり藤原とのエッチはサイコー」みたいに、思ってたんじゃねぇの」
「アホか……」
那月の喋りをわざわざ真似してやったというのに、アホのひとことで片付けられてしまったのはつらい。ここはひとつ、自分の中に渦巻いている気持ちを、熱く語らなければならないだろう!
「これでもな、おまえをとことんまで感じさせるために、ゲイビを見まくって研究したんだぞ。ひとえに愛だよ、愛!」
すると電話の向こう側から、肺の底から吐くような、ものすごい深いため息が聞こえてきた。他にも小声でブツブツ文句を言い続けたあと、堰を切ったように話し出す。
「アンタが彼女持ちだとわかっていたから、これ以上好きにならないようにしなきゃいけないって、自分なりに境界線を作るべくして、俺は悪い男を演じていたんだ。これって、無意味なことだろう?」
(これ以上好きにならないようにって、もしかしてそれって――)
「おまえ、俺のことが好きだったのか?」
「はっ! ヘタレ野郎に、教える義理はないね」
いつものような那月らしい反発の言葉に屈しないように、縋りつく感じで訴えた。
「那月、お願いだ。教えてくれよ」
「…………」
その後、何度も問いかけたのに、だんまりを決めこまれてしまった。これならさっきのように、ため息が聞こえていたほうがマシだと思える。
那月のリアクションがさっぱりわからないままじゃ、手の打ちようがない。
「おまえの気持ちを聞き出せないんじゃ、俺はこのまま片想いを貫かなきゃいけないのかよ」
「…………」
「躰だけの関係で終わらせたくない。那月の心も欲しいんだけど」
両想いが確定なのに、これまでのやりとりで、すべてが無になるような気がして、焦らずにはいられなかった。
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