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まったく想像していなかったことを提案された衝撃のせいで、しゃがんでいた足が勝手に動き、その場に仁王立ちした。
「ぉ、俺があげたチョコを、一緒に食う、だと!?」
狼狽えまくりの俺の様子に、那月はドン引きしたらしい。「うわぁ……」なんていう声のあとに、ため息が漏れ聞こえた。
「那月、誤解だ。嫌なんかじゃなくてだな」
「どこから聞いても藤原の声の感じは、嫌そうにしか聞こえないってば」
「そんなことない! 逆だよ逆っ、すげぇ嬉しかったんだ」
いてもたってもいられなくなり、来た道を引き返すべく歩きはじめた。那月の家を出たときの足取りとは反比例した、自然と弾んでしまうそれは、妙にふわふわしたものになった。
「嬉しいなら、それなりの態度で表せばいいのに」
「現在進行形でスキップしてるって言ったら、信じてくれるのか?」
告げた途端に、電話の向こう側から異音がした。多分、那月が吹き出した音だと思われる。
「ちょっちょっちょっと、それってマジなのかよ?」
「マジマジ! 普段しないことしてるせいで、ムダに息がきれてるだろ?」
豪快にゲラゲラ笑ってみせたら、つられるように那月も笑いだした。
「イケメンの藤原がスキップなんて、全然似合わない。もう止めなよ」
「那月が気持ちを教えてくれたら、スキップを止める」
「うっ……」
俺はスマホを片手にふーふー言いながら、スキップを続けた。那月が言うとおりに、俺みたいなヤツがスキップしている姿は異様に見えるらしく、道行く人たちは目を合わせないようにしていた。
すると根負けしたのか、ややしばらくしてから那月が口を開く。
「しょうがないな、まったく。俺は藤原が好きだよ……」
ものすごい早口だったが、しっかりと認識できた愛の告白に、頬が緩みっぱなしになる。
「俺も那月が大好き。これからもよろしくな!」
「はいはい、わかってますよ。早く来ないと、チョコ全部食べちゃうからね!」
言いたいことを告げるなり、プツンと通話が切られてしまった。
(一緒にチョコを食べたいなんて強請られたら、那月のことも食べることになるというのにな)
着ているブルゾンのポケットにスマホを戻し、急ぎ足で駆け出した。
スマホ越しじゃない、直接顔を突き合わせた状態で、愛を確かめ合いたいと切に思ったから――。
おしまい
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