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好きなヤツの行動を、簡単に導き出してしまう自分を嘲笑いながら目を閉じると、彼女に向かって優しくほほ笑む藤原の顔が、まぶたの裏にしっかりと映り込む。
1年前はこんなふうに元カレが笑ってくれたらいいなと、何度も思った。ヤるだけヤって、気に食わないことがあれば、容赦なく暴力を振るう元カレにほとほと嫌気がさして、自分から別れを切りだしたのは必然だった。
すると別れた腹いせに、大学構内であることないことをでっち上げた噂を広めらてしまったんだ。
『那月は誘えば簡単に跨ってくる、ビッチなヤツだぜ』なんていう、信じられないことをあちこちに吹聴しまくったバカな元カレのせいで、大学内にいるときはベッドのお誘いが絶えなくなったのである。
もちろん、すべて断った。ただひとり、藤原を除いて――。
あれは半年以上前のこと。青空が眩しく見えるのに、そこまでも暑さを感じない気候的には最高の環境下、大学の中庭にある大きな木の下で、俺はひとり読書にふけっていた。
ありもしない噂をバカな元カレが方々に流したことで、ベッドのお誘いと同時に、みんなから奇異な目で見られることにほとほと疲れきってしまい、人との付き合いを極力避けていた頃だった。
『おまえ、名倉那月だろ?』
手にする本の内容が面白くなりかけた刹那、いきなり誰かに話しかけられた。読んでる本から渋々視線をあげると、青空を背負った見目麗しい男が俺を見下ろす。ミスキャンパスと呼び声高い、構内一かわいい彼女といつも一緒にいる有名人のため、誰もが知ってる男だった。
「そうだけど。なにか用?」
『誘えば寝るって噂、本当なのか?』
唐突に投げかけられた問いかけが意外すぎて、思わず持っていた本を閉じてしまった。栞を挟むことを忘れるくらいに、俺としては衝撃的だった。
コイツの彼女はミスキャンパスに選ばれるようなかわいいコだったし、藤原自身もイケメンに分類されるような男。そんなヤツが自分に声をかけること自体、どうにも信じられなかった。
「……アンタ彼女持ちなのに、俺とヤりたいのかよ?」
『男とヤるなんて、浮気のカウントに入らないだろ』
耳を疑う言葉をさらっと告げた藤原の顔は、彼女の前でいつも見せてる優しい顔じゃなく、自分の美貌を利用して俺とどうにかなりたいという欲望を漂わせる。俺自身、アッチの関係からしばらく足を遠のかせていたこともあり、妙に惹きつけられるものを感じてしまった。
「ふぅん。彼女の前ではいい彼氏を演じるアンタの本性は、悪い男なんだな。こっわ~!」
「おまえには負ける」
「アンタくらいのイケメンなら、どんな女のコでも簡単にヤらせてくれそうなのに、どうして男の俺を誘うかな……」
見るからにノンケの藤原が自分を誘った理由がどうしても知りたくて、疑問を投げかけるように、このときは言の葉を紡いだ。
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