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『とにかく藤原くんは、私の傍にいればいいんだからね。浮気なんて、もってのほかだよ。あとね――』
ミスキャンパスの彼女の繰り出すワガママが、日毎にどんどん厳しくなるせいで、俺はほとほとまいってしまった。そんな微妙な関係を維持しているというのに、周囲から羨望のまなざしが、いやおうなしに注がれる日々にも、正直ウンザリした。
彼女のことが好きで付き合ったはずなのに、その気持ちは次第に薄れていき、気がつけば自由にのびのびと行動している那月へと、俺の想いは移ったんだ。
俺と違う意味で周りから注目されている存在――誰とでも寝るという酷い噂が、大学構内のそこかしこで囁かれているというのに、我関せずというマイペースを一切崩さない那月に惹かれたのが、好きになった理由だと思う。
だから彼女には別れを告げたのに、別れたくないの一点張りを貫かれ、俺が冷たくあしらってもずっと彼女面された。断り続けるという面倒くささも手伝ったので、仕方なくそのまま放置し、那月にアタックすることに決めた。
恋した相手は、ビッチと噂されている年上。年下だからと舐められてあしらわれたら、そこで終了なのがわかった。だから逢うたびに毎回声をかけつつ、必死に食らいつきながら、偉ぶった態度を無理やりとり続けるしかなかった。
すると根負けした那月が、俺が触れることを許してくれた。
あからさまな嫌悪感を示されなかったものの、仕方なく付き合ってやるという感じが、肌を重ねているうちに、なんとなく伝わってきた。
見つめると逸らされる、絶対に合わせない那月の視線。煽る言葉をかけても、感じていないをひたすら貫く、強固なメンタル。そんな気難しい相手を夢中にすべく、ゲイビを何本も見て研究した。ひとえに好きな相手を、とことん感じさせるために――。
『このあと、彼女とヤるんだろ。せいぜい頑張れよ。俺もアンタに負けないように、抱かれに行ってくる』
クリスマスイブにプレゼントを渡して、募る想いを告白しようと思っていたところにかけられた言葉がきっかけとなり、真実を告げる勇気やいろんなものが一気に削がれてしまったのは、悲しい思い出だった。
躰だけでつながる俺たちは、この先も変わらず、現状維持したほうがいいのだろうか――逢いたいときだけ言葉を交わし、抱きたいときに触れるだけの関係。しかも誘うのは、すべて俺から。那月は動かず、そこに立ちつくしているだけ。
(このままじゃ埒が明かない。アイツは絶対に動かないんだから、俺がみずから行動しないと!)
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