悪い男

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「本当に悪いと思ってるって。マジで反省してる」 「それで、渡してくれたチョコの意味はなんだよ? 日ごろの感謝を込めて、俺に渡したってところだったりするのか?」  避けていた話題をいきなり提供されたせいで、混乱がふたたび俺を襲った。 「ひっ、日ごろの感謝ぁ?」  声をひっくり返した俺のセリフを、那月はどう思っただろうか? 「そう。アンタに誘われて一度も断ったことがない、皆勤賞の俺に対する、感謝の気持ちかなぁと思った」 「それはだな、その……」 (感謝の気持ちじゃなく、那月が好きだという気持ちで渡したって、さらっと言えばいいだけの話だろ) 「らしくないな。いつもウザいくらいにペラペラ喋る藤原が、そんなふうに口ごもるなんてさ。もしかして照れてるのか? わざわざ名前入りのチョコを渡したことを、俺が重く受け取って、変な解釈したらどうしようみたいな」 「変な解釈については――」 「安心しなよ、大丈夫だから! 彼女持ちの藤原に、俺が変な気を起こすハズがないって……」  先手を打つような内容に、自分の気持ちを言うタイミングを、すっかり奪われてしまった。 「そ、そうそう。変な気を起こされても、すっげぇ困る。ビッチな那月相手に、俺が本気のチョコを渡すわけがないだろ……」 「だよなー。知ってた!」 「うん……」  ショックでその場にしゃがみ込み、頭を抱えながら形勢逆転させる策を、必死になって考える。下手に「そんなんじゃない」や「違うんだ」などの否定的なワードを言っても那月の性格上、信じてくれないほうが濃厚だった。 「藤原に電話するだけ野暮だと思ったんだけどさ、こんなの貰ったらちょっとね。一応確認しておきたくて」 「そっか。びっくりさせたよな」  説得させるような言葉が、俺の脳内に文字として浮かび上がるが、右から左へと虚しく流れるだけだった。 「まったく、驚いたのなんの。もしかしてヤってるうちに、俺のことを好きになっちゃったのかと思った。だって、躰の相性がバッチリだからね」 「…………」 (くそっ! 那月がわざわざ電話をかけてくれたチャンスを、どうして俺はうまく使えないんだ……) 「藤原?」 「…あぁっ、あにょさっ!?」  想いが空回りした結果、口が空回りして変な言葉を発してしまった。しかもふたたび声がひっくり返るという、格好悪すぎるオマケつき。こんなの、告白以前の問題だろう。
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