罪と誇り

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 ある日の深夜、いつものように玄関のドアが閉まるバタンという音で私は目を覚ました。  深夜も一時を回っている。珍しく酒でも飲んで帰ってきたのだろうか。いつになく遅い時間だった。  眠っている私達に気を使い、足音を忍ばせているのだろう。父が歩く度に、床板がミシミシと耳障りな軋み音を立てた。  その昔――母がいた頃は、父がどれだけ遅く帰ろうとも、母は必ず起き出して父の世話をしていた。母はこっそり布団から抜け出したつもりでも、母の温もりに敏感だった幼い時分の私は、その度に目が覚めてしまったものだ。  その頃の名残だろうか。一人で眠るようになってもう長い時が経つというのに、私の眠りは浅く、ちょっとした物音が耳についてしまう。  もしあの時いなくなったのが母ではなく、父だったのだとしたら、今頃私は深い眠りにつく事もできるようになっていたのだろうか。ぼんやりとそんな想像を巡らしていたその時、ガタガタンというけたたましい物音が突然家を揺らした。  思わず布団から飛び起き、何が起こったのかと耳を澄ませる。けれど、聞こえてくるのはバクバクと激しく鼓動を打つ自分の胸の音ばかりだった。 「……お姉ちゃん?」  恐る恐る部屋を出ると、すぐ隣のドアのすき間から美和も同じように怯えた目を覗かせていた。 「お父さん……だよね?」  二人で連れ合うようにし、忍び足で階段を下りていく。そこで私達が目にしたのは……脱衣所の入り口から不自然に飛び出した二本の足だった。  倒れていたのは、間違いなく父だった。風呂にでも入ろうとしたのか、ワイシャツのボタンをへそまではだけ、下はパンツ一枚の情けない恰好で横たわったまま、父はピクリとも動かなかった。  顔色は真っ青で、眉間には苦し気な深い皺が浮かんでいた。鼻をつく異臭がすると思ったら、体の下には失禁を示す水たまりができていた。 「お、お姉ちゃん……」 「待って」  震える美和を手で制して、私は父の首筋に手を当てた。脈はある。弱々しいような気がするけれど、呼吸も止まってはいないようだ。 「……どうしよう」 「でも、これって……」  私達はしばし見つめあった。
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