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ババアの朝は早い。
翌朝、目覚めたフローラは自室から続くバルコニーに出て、大きく深呼吸した。
二階のバルコニーから見える王宮の庭は、色とりどりの花で埋めつくされている。
「きれい~」
大きく息を吸い込むと、ひんやりとした早朝の空気に、緑のにおいを感じた。
遠くを見れば、通りを曲がっていく一人の護衛官。朝早くから鍛練だろうか。
(雲ひとつない、いい天気! ご飯を食べたら散歩しよ~)
*
「え? 散歩ですか?」
髪を梳かしていた侍女が面倒くさそうに言う。鏡越しに見たその侍女は、いぶかしげな顔をしていた。
「ダメ?」
「王太后陛下、日焼けしますし、また不整脈が出ますよ。いつものようにお部屋にいらしたらいかがです?」
前フローラは、夫のフェリクス三世を亡くしてより、好きだった花を眺めに外に出ることさえしようとしなかった。
そして昨夜、夫を亡くした悲しみと周囲からの重圧に耐えきれなくなった彼女は、夫の元へ行こうと服毒したのだった。
フローラは部屋に飾られている若かりし頃のフェリクスと自分の肖像画を見やった。
心が締め付けられる。会いたくて会いたくて仕方がない。だけども、もう会えない。
行き場のない思いが、耐えようもなく苦しい。
(ぐぅ……)
そんな前フローラの悲しみは、この体にしっかりと染み付いている。大切な人を亡くした前フローラの、何もしたくない気持ちも分かる。
今はただ、美咲が普通に外に出たいと思っただけだ。
「……別に構わないけれど? 少し動いた方が健康にいいし」
(というか、ジョギングを日課にしてたし)
フローラが言うと、侍女は小さくため息を付いて、髪を結うのをやめた。
そうだ。いつもそうだった。気弱な前フローラは自分の意見を押し通せず、周りのいいようにされてきた。
この髪型だって、王太后だというのにずいぶんと簡素な髪型だ。完全に手抜きされている。
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