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「……クビな」
「なっ!」
フローラに背を向け、道具を片付けていた侍女は、ビクッと体を震わせて振り向いた。
前までのフローラなら、涙を飲んで外に出ることを諦めただろう。
だが、中身が美咲になった今は違う。昔のフローラが言えなかったことを言ってやる。
「クビ!」
「──そ、そんなぁ! お許しください! 王太后陛下!」
「クビ! クビ──ッ!! 早く出ていって!」
フローラは顎を付きだし、首を斬る仕草をした。目ん玉ひんむいて。
「ひぃぃぃぃっ!」
侍女は青い顔をしながら部屋を出ていった。
その後、侍従長が事情を聞きに来て、他のメイドがフローラの身支度を手伝った。
長く仕えている侍従長は前フローラの味方のようだった。「王太后陛下が外に出た!」と涙を流して喜んでいた。
前フローラは花が好きだった。とりわけフローラの部屋から見えるこのあたりの花は、目を見張るほどに美しい。
だが、散歩中の美咲の気分は晴れなかった。
(だる……)
分かってはいたが、付き人がいる。それもたくさん。久しぶりの散歩に心配した侍従長が、護衛官の他、侍従や侍女、メイドに医者まで付けたのだ。
(何人いるんだよ……。一人でゆっくり見たいんだけど? あ! そうだ!)
早々に散歩を切り上げ、自室に戻ったフローラは、ドレッサーからラブリーなペンダントを手にすると声高に叫んだ。
叫ばずともいいと言われたが、叫ばずにはいられない。
「変身!」
☆.。.:.+*:゚:*+.:.。.♡.。.:.+*:゚:*+.:.。.☆
「アッハ! こりゃいいわ!」
メイド服だし、誰も王太后だとは思わない。それに、メイド服がなかなか可愛い。
鏡の前でくるりと回ったフローラは、ニヤリと笑ってバルコニーに出た。ここからこっそり外に出るのだ。
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